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シャチハタ印 [その他]

届出などの書類に押印するとき、シャチハタ印は不可、という注意書きをよく見かける。なぜダメなんだろう。そもそも、特定のメーカーを名指しして排除するなんて、許されるのか?

inkan_syachihata.pngシヤチハタ社(正式名称はヤが大文字)は、もともとスタンプ台の製造で成長した会社である。その技術をもとに、押すだけで内部からインクが染み出す朱肉不要の印鑑を開発した。俗に言うシャチハタ印とは、この浸透印のことを指す。浸透印がなぜ銀行などで使えないのか、ググると山ほど関連記事が出てくる。ざっと見る限り、インクが朱肉に比べ長期保存に向かない、印面がゴム製で印影が変形しやすい、量産品ゆえに印鑑としての証明能力が弱い、の3つくらいに集約される。真偽は私には測りかねるが、3つ目が少し引っかかる。量産品ならべつに浸透印に限らず、百均で売っている三文判だって事情は同じはずだ。さすがに実印は必ず特注だと思うが、銀行印くらいなら量産品を使う人のほうが多いのではないか。

家にある複数の認印を見比べると、どれも印影が少しずつ違う。三文判はメーカーが乱立して千差万別だから、買う店が違えば全く同じ商品に巡り合う可能性は低い。誰かが印鑑を偽造しようと同一製品を探しても、実際に割り出すことは困難と思われる。一方、シヤチハタのロングセラー「ネーム9」は浸透印のシェア80から90%を占めると言うから、十中八九は特定できてしまう。ハンコの皮肉な宿命か、売れれば売れるほど独自性を失い、印鑑としての存在価値は色褪せる。シヤチハタ社にとっては、自社製品にNGを喰らうこと自体、むしろその圧倒的優位を証明する勲章ということかも知れない。

テレワークが増えて紙文書ベースの決済が不便になり、職場内では脱ハンコの潮流が加速している。河野行革相がこれに便乗し、省庁の押印原則廃止を突然ぶち上げたのも記憶に新しい。個人的には煩わしさが減るので歓迎だが、印章業界にとっては死活問題になりかねない。そんな中、最近良く見るCM(唐沢寿明さんが出てるやつ)によれば、シヤチハタはクラウド電子決済サービスに進出しているようである。印鑑メーカー自ら進んで、会社や役所の書類から消えゆくハンコに引導を渡しているように見えなくもない。スタンプ台のメーカーだったのにスタンプ不要の印鑑を作って名を馳せた会社だけあって、ある種の自己否定をバネに飛躍するしたたかさが、ちょっとカッコいい。

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