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ワクチンとマグネットのはなし [海外文化]

medical_vaccine_covid19.pngコロナワクチンの接種跡に磁石が引っ付くという無邪気なデマ動画が、アメリカを中心に拡散しているようである。自ら二の腕に小さなマグネットを貼って驚いてみせる人が続出したが、噂を聞いた当初はおバカなユーチューバーがネタでやっているのかと思っていた。しかし実際に動画を確認してみると、要はワクチン陰謀論者がキャンペーンの一環で広めているのである。

ウイルスと同じで、陰謀論にもいろいろな変異種が存在する。中でも感染力の強い流言は、コロナワクチンにはマイクロチップが仕込まれていて、接種した人はみな知らないうちに行動を監視される、という壮大なお伽話だ。ビル・ゲイツ氏が以前から感染症対策に関心が高く、ワクチン開発にも積極的に投資しているせいで、ゲイツ氏が黒幕だとする「説」がまことしやかに囁かれ早一年が経った。マイクロチップって強磁性体なのか、注射針を通過できるほど極小のチップが存在するのか、とかいろいろ疑問は尽きないが、陰謀論に合理的思考は初めから通用しない。

すでに成人人口の半数以上が少なくとも1回の接種を終えたアメリカであるが、ここ最近接種数が伸び悩んでいるという話を聞く。行政は接種促進に躍起だ。ニューヨークでは駅で接種すると一週間分のメトロカードをもらえたり、球場で接種するとタダでヤンキース・メッツ戦チケットをもらえたり、と気前が良い。オハイオ州に至っては、接種を済ませた人は毎週100万ドルが当たる宝くじに参加できるという破格の大盤振る舞いを始めるそうだ。日本では考えられないような税金の使い道であるが、裏を返せば米国の焦りの現れでもある。ゴリゴリの保守層を中心に、成人人口のおよそ5分の1から4分の1くらいはワクチンを断固拒否する難攻不落の岩盤だそうだ。それに加えて、なんとなく接種が不安で尻込みしている層が一定数いるようである。

ところで、マグネット動画をせっせと作っている人たちが反ワクチン派だとすれば、彼ら自身が本当に接種を済ませた可能性は限りなく低いはずだ。だから、「接種した」腕にマグネットがくっつくと実演している時点で、そもそも矛盾しているのである。もし進んでワクチンを打つような人なら、両面テープで(かどうかは知らないが)磁石を貼り付ける見え透いた芝居を打つ動機がない。つまり、動画のシチュエーションが成立する余地が本来ないのである。あれこれ主張するわりにツメが甘いのも、陰謀論者に見られる共通の特徴の一つだ。もともとガセネタを信じやすい純朴な人たちなので、無理もない。

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