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ワクチンとマスク [科学・技術]

medical_mask_shinpai_doctor_man.pngアメリカでは、新型コロナワクチン接種を終え2週間経った人は大抵の場所(公共交通機関除く)でマスクはしなくて良いとCDCが宣言するに至った。ところが日本では、専門家がまるで違うことを言う。ワクチンの効用は完璧ではないので、集団免疫が成立するくらい接種が普及するまではマスク着用をお願いします、という類の忠告を幾度となく聞かされた。どちらの言い分が正しいのか?単純な理屈で考えれば、日本の(一部の)専門家がおっしゃることは、今ひとつ筋が通らない。

症状がないのにマスクをしないといけないのは、新型コロナには無症状の感染者が一定数おり、無自覚に飛沫感染を広げてしまう恐れがあるからだ。しかし2回接種後一定期間を経た人の感染リスクは、十分低い(ウイルスが体内に入ってきても増殖する前に免疫システムが退治してくれる)。本人が感染しなければ他人にうつす可能性もないから、マスクの必要はなさそうである。

たしかに当初は、ワクチンは重症化を防ぐが感染防止の効果は不明とされていた。しかしデータが揃った今では、感染抑止に十分効くことがわかっている。研究によって数値は多少ばらつくが、2回目接種を終えて1週間たつと、感染が80~90%程度(研究によってはそれ以上)抑制されるようである(山中教授のまとめ)。ワクチンを打たなければ10人感染する状況で、全員ワクチンが済んでいれば1人か2人で済むということになる。ファイザーのワクチンは、変異株にも90%以上の効果があるという話だ(もう一人の山中教授の研究)。運悪く感染してしまう1~2人も、重症化の恐れは未接種者よりずっと低い。

いま感染者が10人いたとして、全員がマスクを着用しているとしよう。不織布マスクは、吐き出す飛沫を20%程度にまで抑えるという研究がある(豊橋技術科学大学のサイト)。マスク着用の10人が、合わせて2人分の飛沫を飛ばしていることにになる。面白いことに、10人中2人程度という割合は、ワクチンの感染予防効果とほぼ同じか、むしろ高いくらいだ。つまり、接種済みの人がノーマスクで行動する感染拡大リスクは、未接種の人が全員マスク着用で行動する模範的対策の状況と変わらないし、どちらかといえばより安全と言ってもいい。やはり、接種が済んだ人にマスク着用を要求する理由が見当たらない。

ただし、今のところ日本にはワクチンパスポートのような制度がないので、接種を終えたことを公的に証明する手段がない。仮に接種完了者にだけマスクを免除しても、自己申告に頼らざるを得ない。ワクチンを打ったふりをする不届きな輩も出てくるだろう。それを誤差のうちと寛容に受け入れるのか、けしからんと眉をひそめるか。生真面目な日本社会だから、ワクチン警察とかいろいろ出没しそうである。ワクチンとマスクをめぐる専門家の言葉にあまりサイエンスを感じないのは、彼らがその辺りの空気も読んで喋っているせいかも知れない。

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