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怒りとは理解の不足である [スポーツ]

sport_tennis_set.png大阪なおみ選手が、全仏オープンの試合後会見への出席を拒否して話題を呼んでいる。同じような質問ばかり繰り返され、ときに悪意を感じるような会見の場に辟易としているようだ。彼女のTwitterの一部がこれだ。

We’re often sat there and asked questions that we’ve been asked multiple times before or asked questions that bring doubt into our minds and I am not going to subject myself to people who doubt me.

最後の部分は「私を信じない人たちを前に自分をさらし者にはしない」のようなニュアンスか。私は普段テニスを観ないので、彼女(や他の選手)が会見の場でどんな嫌な思いを経験してきたのか具体的には知らない。だがこの顛末で何となく思い出したのは、今や懐かしいトランプ元大統領である。在職中のトランプ氏は、記者会見で意に沿わない質問が出るたびヘソを曲げて相手をフェイクニュース呼ばわりし、Twitterで一方的に発信することを好んだ。二人を同列に並べるつもりはないが、トランプ元大統領が大阪さんのツイートを読んだら、きっと我が意を得たりと膝を叩くのではないか。

オリンピックはそれを観る人が支えている、という話を少し前に書いた。プロテニス界も同じだと思う。大会の賞金や高額のスポンサー料は、そこに巨大市場があるからこそ存在する。もちろん、試合そのものはストイックな真剣勝負の場だから、純粋にスポ根だけをグランドスラムに求める硬派なテニスマニアも少なくないだろう。しかし、コートの外を含めた選手の人間像に触れたいファンは、たぶんもっと多い。試合後の会見は、そんな「市場」と選手をつなぐインターフェースである。たしかに、負けた選手に追い討ちをかけるような質問も出るかもしれない。しかし選手の心情を理解しないメディアに向き合うのも、有り体に言えばプロ選手の「仕事のうち」ではないか。

ここまで書いたところで、大阪選手が全仏オープンの途中辞退を決めたというニュースが入ってきた。長文のツイートで、彼女自身が患った鬱の苦しさも吐露している。自分の気持ちや意見を率直に表明するのは彼女の美点だと思うし、繊細で傷つきやすいことを責めようとは思わない。しかし大阪選手自身、彼女の社会的影響力の大きさをまだ測りかねているのだろうかとも思う。大阪選手の年収が女性アスリートで世界トップに躍り出たというニュースが駆け巡ったばかりだ。世界のあらゆるトップ・アスリートと同じように、彼女の存在もまた巨大マーケットの歯車とともに回り支えられている事実は、否定しようがない。

大阪選手が呟いたちょっと意味深なツイートに惹かれる。

anger is a lack of understanding. change makes people uncomfortable.

怒りとは理解の不足である。人は変化に馴染みたがらない。シンプルな金言だと思うが、それなら大阪さん自身が表明した「怒り」も、彼女の理解不足に端を発しているとも言える。聡明な人だから、一人のアスリートとしての矜持と彼女が依存する市場原理のあいだで軋む矛盾のはざまに、じきに落とし所を見出すことを期待している。

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