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中止か失敗か [科学・技術]

space_rocket_hassya.pngH3ロケットの打ち上げが中止された。メインエンジンが正常に起動後、固体燃料ブースターに着火信号が送られなかったそうである。制御系が異常を検知して非常停止したとのことで、もっか原因調査中らしい。年度内の打ち上げを目指すという報道も聞こえてくるので、設計変更を余儀なくされるほど大きな問題ではないことを願う。

打ち上げ中止を説明するJAXAの会見のなかで、ちょっと面白いことが起こった。共同通信の記者が、打ち上げは「失敗」だったとJAXAに言わせようとずいぶんと食い下がった。しかし、深刻なトラブル(爆発とか)を回避すべく安全装置が役目を果たした事象を「失敗」とは言わない、というのがJAXAの立場だ。対して共同通信の記者は、想定外の異常が発生したこと自体を「一般に失敗と言います」と言い放った。

人間は神様ではないので、あらゆる不備の可能性を完璧に想定しておくことはできない。だから不測のトラブル発生を見込んだ上で、それを最小限に抑えるため何らかの安全装置をシステムに組み込んでおく。とくにロケットのような高度に複雑なメカは、最善を尽くしてもなお何らかの不具合はつきものだ。強引に打ち上げて海の藻屑と化したりすれば、取り返しがつかない。だから大事を取るのは当たり前で、ロケットが予定通りに打ち上らないことは珍しくない。大事を取ることを、一般に失敗とは言わない。むしろ、かくも愚鈍な記者を会見に送り込んでしまった共同通信社の判断の方が、明らかな失敗である。

打ち上げ前、大手メディアはH3ロケットに対する期待感が支配的であった。これには個人的に少し嫌な予感があり、いざ打ち上げが上手くいかなかったときに掌返しをされるのではと危惧していた。かつての日本では、オリンピックやワールドカップで日の丸を背負い勝負に挑む選手たちを大いに持ち上げ、いざ期待に沿う結果が出ないと激しくバッシングする光景がよく見られた。そういうヒステリックな反応は今では少なくなったとはいえ、社会から完全に消滅したわけではない。打ち上げ中止会見でのできごとから察するに、一部メディアはまだ昭和の温度感のなかで生きているようである。

共同通信以外も、失敗と認めないJAXAや失敗と書かないメディアを批判する言説が散見される。組織体質の問題と見たいようだが、もともと工学的観点から失敗でも何でもないのだから論点がずれている。文系ジャーナリストの理系リテラシー不足ということかもしれない。今回の打ち上げ中止案件は、日本のロケット技術水準より日本の(一部の)ジャーナリズムが抱える問題点を鮮明にあぶり出した気がする。

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