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ほぼトラ [政治・経済]

america_daitouryousen_man.png今年秋のアメリカ大統領選を控え、共和党予備選でトランプ氏が圧勝した。バイデン大統領にトランプ氏が挑む構図は、4年前と攻守が入れ替わっただけで一向に代わり映えがしない。世論調査ではトランプ氏の人気が上回り、巷では「もしトラ」とか「ほぼトラ」とか来るべきトランプ政権を見据えたさまざまな観測が飛び交っている。

トランプ氏の強さは、いくら失言をしようと支持率が下がらないことである。関税ボッタくり宣言とか、費用負担の少ないNATO加盟国はロシアにやられちまえ発言とか、とりわけ対外政策に関わるトランプ発言はハチャメチャ極まりない。つねに暴言だらけなのだが、暴言に溜飲を下げる人々が一定数おり、トランプ氏を熱狂的に支持しているのだ。彼のMAGA(Make America Great Again)思想は、支持者の耳にはたぶん「俺たちさえよければ、それでいいじゃないか」と聞こえているに違いない。耳に心地よいだけならまだしも、MAGAの延長上で何をやりだすかわからない予測不可能性がトランプ再選後のリスクである。

バイデン大統領はトランプ氏のような攻撃性はないが、この人はこの人で奇妙な失言が多い。ミッテランをドイツの大統領と言い間違え、慌ててフランスと言い直したが、「マクロンだろ」とツッコむ余地を残した見事なボケっぷりであった。期待値の低さという点では、トランプ氏とは別の意味でバイデン大統領は「これ以上がっかりすることはない」的な安定感がある。人口3億3千万を超える国で、なぜこの二人より人望のある大統領候補が現れないのか、と首を傾げているのは私だけではあるまい。

ロボット掃除機を買いに行ったら、中古品が2台だけ売れ残っていたしよう。一台は、自分の部屋はきれいに履き清めるが、溜まったゴミを他人の部屋にぶちまけ知らん顔をする。もう一台は、保証期間をとうに過ぎて掃除の最中に理解不能なエラーメッセージを吐く。どうしてもその場で掃除機を手に入れなければならないとしたら、どちらを選ぶべきか? いま米国市民に突きつけられているのは、そんな問いかもしれない。

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パリ研修の悲哀 [政治・経済]

Eiffel_tower.png自民党女性局のフランス研修が批判を浴びている。国民が物価高で喘いでいるときに政治家はお気楽に観光かと、やっかみ半分の集中砲火をくらって炎上した。まさかのエッフェル塔ポーズはとりあえず不問に付すとして、無邪気な記念写真を不用意にSNSへ上げてしまったのは明らかな政治的失敗と言える。局長の松川るい氏は、ネット界隈ではルイ16世と揶揄されているそうである。

一般論としては、政治家が海外研修に行くこと自体(内容が伴っているならば)何ら問題はない。原資となった政党交付金は元をたどれば税金だと言われているが、(使い方が真っ当ならば)海外研修の旅費に税金を使うことが悪いわけでもない。ネットに上がった料理の写真を批判する人もいるが、どのみち食事は取らなければならないのだから、美味しいものを食べて来たところで一向に構わない(高級フレンチでなくともお値頃に舌鼓を打てる店はパリにいくらでもある)。セーヌ川ディナークルーズだって、食事の場所が陸から船の上に移動したに過ぎない。松川氏が次女を同行させたと騒がれているが、私費で家族を連れていくことに弊害があるとも思わない。

要はちゃんと意義ある外遊だったかどうかという話だが、旅程表によれば研修は実質6時間だったと週刊誌で報道された。日程は3泊5日だったそうなので実質的な滞在は中2日だが、2日間で6時間とはさすがにユルい。6時間しかやることがないなら、一日短縮して2泊4日で用は足りる。または逆に、もう数日滞在しても良いからさまざまな交流事業を予定ぎっしり盛り込み、さらに見聞を広めたっていい。なぜあんな中途半端なスケジュールだったのか?

研究者の海外出張の場合、国際会議の通常フォーマットでは朝9時(またはより早く)から随時休憩を挟み夕方5時(またはより遅く)まで続く。合間や終了後に空き時間があれば、海外の研究仲間と話が尽きない。普段はできない情報交換で脳内をアップデートする、絶好の機会だ。政治家は学会に出るわけではないので話は違うが、一般人の出張よりも手持ち無沙汰感が強いのはどういうわけか。日本人同士つるんでシャンゼリゼでショッピングする暇があったら、他に現地で会う人はいないのか。

実働6時間の理由は、フランスでやるべき仕事がそれくらいしか思いつかなかったのかもしれないし、フランス側で交流に応じてくれる相手先が計6時間分しか捻出できなかったのかもしれない。(観光目的でなかったのであれば)政権与党の発想力と交渉力はせいぜいその程度だったということになる。何となく悲哀を感じる話である。

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マイナ保険証問題 [政治・経済]

my_number_card2.png健康保険証をマイナンバーカードに統合する大計画が進んでいるが、その過程で数々のトラブルが発生している。岸田総理の支持率が再び下落し始めた要因の一つとまで言われている。

医療機関の窓口では、カードリーダーに読み込めない、顔認証できない、登録データが出て来ない、といった技術トラブルが多いようである。とは言え、これらの問題は従来どおりの保険証を利用すれば済む話なので、対応に追われる現場の時間的損失を別にすれば実害はない。

より重大なのは他人の情報が紐づいている事例が発生していることで、場合によっては診療に悪影響がある。厚労省は、今年5月下旬までにマイナンバーが間違って登録された案件が7,300件余りと発表した。これ自体は少なくない数字ではあるが、実際に他人の情報が閲覧されたのは(約13.2億件中)10件だそうで(参考PDF)、紐付けミスが起こっても現実に個人情報漏洩に至るケースは極めて少ない。

不手際には変わりないので行政を擁護する意図は毛頭ないが、首相の支持率に直結するほど大した話か、というのが率直な実感である。マイナ保険証に限らず、新しいシステムを大々的に導入すれば初めはたいてい不具合が続発する。それを温かい目で見守れと言うつもりはないが、メディアが率先してマイナ問題をヒステリックに糾弾する昨今の様相は、それはそれで異様である。

なぜこんなに大騒ぎになっているかというと、もともとマイナカードのアンチが多いからだ。メディアにとっては、美味しい鉄板ネタなのである。世論が消極的でマイナカードの普及が進まない現状に政府が業を煮やし、来年秋には健康保険証をマイナカードに一本化すると前のめりに突っ走った。それが見事に裏目に出て、相次ぐトラブルが反マイナンバー論者に格好の攻撃素材を提供している。

2024年秋の完全マイナ化はさすがに仕切り直したほうが良さそうだが、技術的な不備はきちんと改善した上でマイナ保険証を制度化することに特に問題があるとは思えない。マイナカードが便利と思う機会はほとんどないが、手元に置いておいたところで噛みつかれるわけでもない。 13.2億分の10のリスクにビビッてマイナカードを返納する人まで出て来ているようだが、いったん頭を冷やしてみてはいかがか。

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グローバルサウス [政治・経済]

sekaichizu.png広島でG7サミットが開かれているが、G7の対立軸としてグローバルサウスという言葉がよく聞かれる。新興国全般を指す語で、その語源は途上国の多くが「南半球」にあるからとよく説明されるが、あまり的確ではない。実際には、インドはもちろん東南アジアの大半とアフリカの北半分、中東と中米のすべてと南米の一部は、赤道より北側に位置している。ちゃんと調べたわけではないが、国の数でも総人口でもグローバルサウス諸国の過半数は北半球に属しているのではなかろうか。たぶん、(オーストラリアやニュージーランドを除く)先進国目線で「自分たちより南にある国々」くらいの相対的な地理感覚でサウスとまとめているに過ぎない。

従って、サウスとノースを分ける基準は南北半球ではなく、むしろ低緯度と中高緯度の違いを象徴していると考えた方が良い。ナイルやメソポタニアなど古代文明は低緯度帯に栄えたが、現代の先進国はもっぱら中高緯度に集中している。それは何故なのか、という地政学的な分析は誰か既にやっているかもしれないが、素人が想像するに、冬場の気候が厳しい環境で持続可能な文明を構築するには、相応の科学技術力と経済力を育まざるを得ないということではないか。北欧諸国がおしなべて世界トップクラスの高福祉国家であるのは、極寒の冬で命をつなぐためには生活水準の最低ラインを高く設定せざるを得ないからと想像する。

その仮説に立つと、南半球でも赤道から遠い(うんと南にある)国々は先進国であるべきという理屈になる。しかし現実には、南北非対称な経済格差が存在する。その理由はおそらく、北極海の周囲を大陸がぐるりと取り囲んでいる北半球と違い、南半球の中高緯度は南極大陸を除くと海ばかりで人が住めないからではないか。アフリカ大陸は最南端でも南緯35°に届かず、それより高緯度側(南側)に土地を持つ国はオーストラリアとニュージーランド、そしてチリとアルゼンチンだけだ。アルゼンチン以外の三国はOECD加盟国で、アルゼンチンも百年前は世界有数の経済大国であった。「先進国は中高緯度で育つ」という即席理論は、確かに南半球でも成立しているのである。

もし南半球に人が住める大陸がもっと多かったなら、そこには欧米や日本と互角に渡り合う先進国がひしめいていたかもしれない。そんな世界でどのような国際情勢が立ち現れるのか、想像も及ばない。一つだけ確かなのは、その世界で新興国を「グロバールサウス」と呼ぶ人は誰もいないはずということである。

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必勝しゃもじ [政治・経済]

さほど野球に興味はないのだが、今回のWBCはさすがにシビれた。そのクライマックスを迎える準決勝と決勝に日本中が湧いていた最中、岸田首相がウクライナを電撃訪問した。その際に土産として持参したという「必勝しゃもじ」が物議をかもしている。

syamoji_mokusei.pngこのしゃもじ(杓子)は宮島の特産品で、古くは日露戦争に出征する兵士が厳島神社に奉納し無事を祈ったとされる。当時は極東の小国に過ぎなかった日本が大国ロシアに勝利した経緯を含め、広島が地元の岸田総理にとってゼレンスキー大統領に贈るうってつけの手土産と考えたに違いない。受け取ったウクライナ政府側は、「何だこれ?」と思いつつ客人の贈り物だからとりあえずその辺に飾っておくか、くらいの感覚ではなかったかと想像する。だが一般日本人の視点では、ビミョーな違和感を拭えない。言葉を失うような悲劇に直面する人々に深い共感を伝えるべき局面で、なぜ「必勝しゃもじ」なのか。

首相が訪問先に手土産を持参するのは普通の慣習だ。故安倍元首相はトランプ元大統領にゴルフクラブをプレゼントした。岸田総理のしゃもじも、「普通」の延長で決めた手土産なのだと思う。違和感の元凶はたぶん、普通でない状況に置かれた相手に「普通」の感覚を平気で持ち込む無邪気さにあるのではないか。無理やり例えるなら、年の瀬に参列した告別式で、香典と一緒にお歳暮を置いてくるような神経。永田町の常識ってそういうものなんだろうか。

隣国ポーランドで総理の一行が列車に乗り込む際、うまい棒の段ボールが積み込まれる様子が確認されていた。報道によれば、その中身が総理ご自慢の杓子だったそうである。意図のわかりづらいしゃもじを置いてくるより、いっそのこと箱いっぱいのうまい棒を進呈した方が、気持ちは伝わりやすかったかもしれない。

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家族観と政治 [政治・経済]

荒井首相秘書官が性的マイノリティをディスりまくった挙句、更迭された。普段は身内の処分に及び腰の岸田首相が、今回は珍しく決断が早かった。オフレコとは言え発言内容が相当ぶっ飛んでいたので、さすがに躊躇の余地はなかったものと推察する。首相秘書官と言えば、総理の御子息がお土産購入のパシリで勇名を馳せた出来事も記憶に新しい。秘書官室はなかなかユニークな人材の宝庫のようである。

祖国とか肌の色とか、持って生まれたものを受け入れ、誇りをもって生きる。異性が好きか同性が好きかも、同じことだ。人として当たり前の権利を政治権力が排除するべきではない、という現代社会では当然の原則を、なぜ「見るのも嫌」という駄々っ子レベルの情緒論で覆そうとしたのか。LGBTとか多様性の問題になると保守対リベラルの論争になりがちだが、個人的信条以前に根本的な人間性の問題のように思われる。

荒井氏によれば、秘書官室は一様に同性婚に反対とのことだ。その真偽はともかく、政権与党内の温度感を代表した意見であることは間違いなさそうである。首相自身、同性婚の法制化は家族観や社会が変わってしまう課題とした答弁を野党に突っ込まれた。同性婚が法的に認められたとき、本当に社会は変わるのか?もし社会が変わるとして、その何が悪いのか?日本以外のG7各国を含め、三十を超える国々で既に同性婚は合法だそうである。言うまでもなく、同性婚が法制化されたために社会が壊れてしまった国は、一つもない。

家族観は本来とてもパーソナルなものだ。人の数だけ家庭の理想像は違うし、それで社会の成り立ちには何の支障もない。私的な家族観と隣人の家族観が違っていたからと言って、自分の家族のあり方が脅かされるはずもない。同性婚を法的に認めたからと言って、異性婚を望む人々が不利益を被ることもない。日本の政治は、いったい何を心配しているのか?

figure_douchou_atsuryoku.pngマイノリティに対する差別意識は、裏を返せばマジョリティの心に巣食う恐怖である。多数派が享受する価値感は、必ずしも倫理的正当性を前提としない。それは数に支えられた特権に過ぎず、数を失った時にいとも簡単に崩れ去るかもしれない。マジョリティに属する人々は、本能的にその脆さに気づいている。多数派にとって居心地の良い社会は、一皮むけば自分たちに都合良く作られた張りぼてに過ぎないのではないか?その不安から目を逸らし続けるために、「社会や家族観が変わってしまう」と警戒しマイノリティの権利を認めたがらない。人種差別や性差別と心理の深層は同じである。

個人として伝統的家族観を貫きたいのであれば、それはそれで一向に構わない。ただ政治の中枢にいる人は、自らの影響力の大きさをわきまえ、内なる恐怖心にきちんと向き合った方がいい。

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スパイ気球? [政治・経済]

アメリカ本土上空を不審な気球が航行中だそうである。米国国防省は気球を中国由来の飛来物と即座に断定し、周辺領域に飛行制限がかけられた上に、撃墜まで検討したとういことだ。撃墜はさすがに思いとどまったようだが、一連の騒ぎっぷりに思わず笑ってしまった(が、結局撃墜したらしい。2月5日追記)。

公然と中国を名指しするくらいだから、米国政府はそれなりの根拠はつかんでいたのだろう。中国政府は結局気球が自国のものと認めたが、偵察目的との疑惑は退けた。いろいろ謎めいた話ではあるが、軍事施設のあるモンタナ州上空を狙ったという憶測は今一つ筋が通らない。仮に中国大陸で放球されたとして、偏西風はしばしば激しく蛇行するし、捕まる高度次第で風向きはブレる。運よく太平洋を越えて北米にたどり着いたとしても、狙った軍事施設付近にぴたりと流れ着く保証は全くない。

気球の写真を見る限り、巡航ミサイルのように自力で航路を誘導する動力があるとは思えない。台風並みの強風が常時吹き荒れるジェット気流の中で、巨大バルーンに吊るされた装置をドローンさながら自在に制御するのはちょっと想像しづらい。飛行精度の観点では、太平洋戦争中に日本軍が揚げていた風船爆弾と五十歩百歩ではないか。そもそも、既に高性能のスパイ衛星を実用化しているはずの国が、ローテクで悪目立ちする高高度気球でアメリカの機密情報を収集しようとする動機が見えない。衛星より低高度で撮像の解像度を稼げるので、ダメもとでたくさん飛ばして数撃ちゃ当たるとたかを括っているのか?それとも、中国が言うように単なる気象観測気球が迷子になったに過ぎないのか?

norimono_character4_kikyuu.png3年前、日本の東北地方上空にやはり謎の気球が姿を見せた(当時ブログで分析した)。白い球状のバルーンと正体不明の吊下物、そして民間機の巡航高度を優に上回る高高度といい、モンタナの気球と共通点が多い。真相はさておき、今回の一件でひとつ明らかになったのは、正体不詳の飛翔体が領空に現れたときの初動体制が日米でかくも違うのか、ということである。アメリカは即座に警戒態勢を発動し、撃墜まで検討した。些かやりすぎ感は否めないとは言え、米国の揺さぶりは少なくとも中国から事態釈明を引き出す効果はあった。

一方、当時の日本政府は不審な気球に何ら反応を示さず、まして撃ち落とすなど頭をよぎりもしなかった。結果的に害はなかったが、政府自ら真相解明を引き出す外交的駆け引きの意欲すらないと証明したことになる。折しも防衛費の引き上げやその財源問題が議論を呼んでいるが、ハード面の整備以前に隙だらけの外交メンタルをまず見直した方が良さそうである。

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ゼロコロナの末路 [政治・経済]

厳格なゼロコロナ政策を頑なに堅持していた中国が、ついに緩和へ舵を切った。その途端、堰を切ったように感染爆発が起こっているようである。

kotowaza_kusaimononi_futa_man.pngワクチンの感染防止力が弱いオミクロン時代にあって、人口の一定数が自然感染を経験しなければ集団免疫獲得は難しいのではないか。と何度かここでも書いたが、本当にそのセオリー通りになっている。ゼロコロナはつまるところ臭いものに蓋をしているだけであって、そろそろ大丈夫かと蓋を開けてみたがやっぱり大変なことになった、ということだ。臭いものはいつまでたっても臭いままだったのである。

感染拡大が早かった欧米諸国はパンデミックから一抜けするのも早かったが、相当な犠牲を伴った。欧米に比べると日本は最初の二年を比較的穏やかな波で乗り切ったが、今年夏の第七波で遅ればせながら世界最悪水準を記録した。とはいえ当初よりウイルスが弱毒化した後だったので、累計死者数では日本は多くの諸外国より低水準で済んでいる。結果論としては、日本はそこそこ器用にコロナ禍のダメージを抑えて乗り切ったと言えなくもない。

日本のコロナ対策が優れていたのか?あまりそういう実感はない。欧州ほど徹底したロックダウンは一度も実施せず、お願いベースの緊急事態宣言が対処療法的に繰り返された。臭いものにいちおう蓋はかぶせてあるが、そこにカギはかかっていない。政府は「なるべく開けないでくださいね」と言うだけで、遠巻きにする人もいれば、こっそり中を覗いてみる人もいた。今思えば、このユルさがちょうどよかったのかもしれない。

ウィズコロナでもゼロコロナでもないどっちつかずの曖昧さが、早すぎも遅すぎもしない絶妙なペースで社会に感染を広めることに成功したのではないか。いつか新型コロナが歴史の一部として記録されるとき、日本の対策は確固たるポリシーを欠いたまま(むしろ欠くがゆえに)最悪の感染爆発を回避した稀有な成功例として、驚嘆の眼差しを浴びるかもしれない。

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第8波の先 [政治・経済]

コロナ新規感染者数がじわじわと増加し、第8波がどうのと盛んに言われるようになった。感染再拡大が始まった(全国の実効再生産数が1を超え始めた)のは10月半ばだ。忘年会とも送別会とも関係のないこの時期に何が起こったかと振り返ってみれば、季節の変化で換気をしづらくなった要因もあるかもしれないが、一つピタリと符合する出来事は10月11日に始動した全国旅行支援である。人が動けば感染リスクが高まるのは当たり前で、わざわざ第8波に油を注いでいるに等しい。ただデルタ株以前とは状況が違うので、感染拡大を承知で旅行業界を支援するのが政府の覚悟なら、ハッキリそう言えば良い。

bed_making.pngここ数か月、国内外の出張先で気付いたことの一つは、連泊の際に客室清掃を毎日やってくれなくなったホテルが少なからずあることだ。ホテル側の言い分は、従業員の感染防止(10月に泊まった米国の某ホテルの例)だったり環境への配慮(先週泊まった東京の某ホテルの例)だったりいろいろだが、本音はスタッフの人手不足でハウスキーピングが回らないせいではないかと推察する。人員整理でコロナ禍を切り抜けたホテルが、急回復する需要に見合うだけの増員を確保できない。古巣に戻って来ないかつての従業員たちは、今どうしているのだろう。インフレが進む米国では雇用は売り手市場となり、より給料の高い職に労働力が流出しているのかもしれない。が、ちっとも給与の上がらない日本はたぶん事情が違う。

日本の場合、パンデミック以前からホテル業界の人手不足は始まっていたようである。観光庁が外国人観光客の誘致に力を入れ、東京オリンピックを睨んでインバウンドの急伸が見込まれていた。そこにコロナがやって来ていったん冷や水を浴びたが、脱コロナに向けて国内の旅行需要が回復すると同時に、長い「鎖国」が明けて海外からの来訪者がどんどん戻りつつある。必要な労働力が都合よく湧いて出るわけはないので、急激に伸びる観光需要に供給が追い付かず、もともとホテル業界が抱えていた構造的な問題が改めて表面化したものと思われる。

水際対策の緩和により、パンデミックで入国できなかった海外の出稼ぎ労働者も戻りやすくなる。しかし、昨今の円安が海外の人々にとって日本で働くメリットを薄めている。第8波後の経済回復まで睨むなら、国内の人手不足を補うため海外からやって来る働き手を積極的に確保しなければ、社会のあちこちが回らなくなるのではないか。円安のリスクは物価高に注意が集まりやすいが、中長期的な悪影響はもっと根が深い。法務大臣の失言に右往左往する以外に、政府がまずやるべきことはたくさんあるんじゃなかろうか。

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民主主義の危機? [政治・経済]

アメリカ中間選挙の結果が判明しつつある。選挙期間中、民主主義の危機という言葉が何度も飛び交った。言うまでもなく、二年前の大統領選の結果を未だに受け入れようとしないトランプ元大統領とその支持者たちを指している。

民主主義の対極は専制政治である。トランプ氏がクーデターでも起こしたのなら話は別だが、「票が盗まれた」とかいろいろ駄々をこねつつもバイデン大統領に座を譲るほかなかった。その意味で米国の民主主義はきちんと機能している。問題の本質は、なぜトランプ氏が今も一定数のアメリカ人から熱烈な支持を得ているのかである。どんな無茶苦茶な人物でも、多数が投票すれば権力を手にするのが民主主義だ。ポピュリズムが民主主義の一部である以上、民主主義の危機というより民主主義そのものが抱える限界が露呈しているところが、アメリカ政治問題の核心である。

royal_gyokuza.png税金は安いほうがいい、でも福祉は手厚くないと困る。この二つをともに実現できると「民意」に迎合する政治家がいたら、それは詐欺師である。自国経済が豊かになればいい、そのためには他国を犠牲にしてもいい、とぶち上げて人気を取る政治家が当選したら、良好な国際関係を損ない長期的には自国に不利益をもたらす。衆愚政治というと言葉は悪いが、民主主義は決して最良の政治体制ではない。もし聡明で徳のある君主がいるなら、国が栄え国民が幸せになる理想の政治形態はたぶん君主制だろう。だが、とんでもない人物が王座につけば計り知れない悲劇が起こる。最善には程遠いが最低限持続可能な唯一の政治システムが、民主主義なのである。

中間選挙では劣勢と言われていた民主党が意外な健闘を見せているようだ。それがトランプ人気の翳りを意味するのだとすれば、アメリカがポピュリズムへ傾倒しすぎる風潮に眉をひそめる人たちが、思いのほか多かったということかもしれない。保守にせよリベラルにせよ、極端に走れば必ず現実から乖離する。両極の合間の落としどころを考え続ける人たちが、民主主義の理性を支えているのである。

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