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一平さんの事件 その3 [スポーツ]

このブログで水原事件を引っ張り続けるのもどうかと思ったが、日本メディアの分析が今一つ冴えないので、私が理解している限りの情報をメモ代わりに整理したい。別にMLBや違法ギャンブル事情に詳しいわけではないので、誤解もあるかもしれない。

business_money_laundering.pngアメリカの国税局IRSや国土安全省DHS(最近報道で耳にするHSIはDHSの一部門である)が調査に乗り出しているという。これら連邦機関の調査対象は、専ら違法賭博の胴元Matthew Bowyer氏であって、賭博の顧客ではない。ただし胴元の資金洗浄に関与していた疑いが出れば、捜査の関心が向く。今回の事件では水原さんの負債の穴埋めに大谷選手の口座から送金されていたという話が出たため、レッドフラッグが立ってしまった。想像するに、賭博の支払いが別人名義で行われたことで、捜査機関にはあたかもギャンブル収入が脱税目的で資金洗浄されたように見えているのである。

Bowyer氏が大谷選手とのつながりを自慢していたという裏話があり、顧客獲得の釣りにオオタニの名を利用していたとされる。一方、公式には弁護士を通じ大谷選手との接触は一度もなかったと断言している。後者が真実と思うが、わざわざそう強調した魂胆は、上記の理由でオオタニ名義の送金を表向き賭博ビジネスから切り離したいのではないか。現実には大谷選手や水原さんがBowyer氏の資金洗浄に関わったとは考えにくいので、捜査の過程でIRSとDHSは二人に対する関心を失うのではと思われる。

それと別に、MLBは独自に調査を進めるそうだ。MLBはもちろん法的な捜査権は持たないが、選手のスポーツ賭博に関しては厳しい内規がある。連邦捜査機関とは逆に、MLBの調査対象は胴元ではなく賭けた本人である。大谷選手が水原さんの賭博関与を知っていたのか、その違法性を認識していたのか、あたりの判断で処分の有無や重さが変わるとされる。大谷選手自身がギャンブルをやっていたわけではないので、処分があっても罰金程度だろうという見方が主流のようだ。とは言え、彼のクリーンなイメージが被るダメージは決して侮れない。そして案の定、大谷選手は胴元への送金を一切知らないという話で統一された。限りなくクロに近いクライアントでもシロに見せる能力が、米国で有能な弁護士の証である。基本的にホワイトな大谷選手を真っ白にするくらい、朝飯前だろう。

大谷選手側は、水原さんが口座に無断でアクセスしたと主張している。それがどうして可能だったか、大谷選手は何も語らなかった。もし水原さんが口座管理を丸投げされていて、二段階認証のアドレスにもアクセスできたなら、原理的に横領は容易だという見立てもある。ただ米国セレブ界の常識では、大谷選手ほどの資産家に危機管理チームがついていないとは信じがたいようである。それに、50万ドル規模の大金が何度も出金されれば、銀行側が必ず察知して然るべき確認作業が取られるという。米国メディアでは、大谷選手が何も知らなかったとする主張には懐疑的な論調が少なくない。

大谷選手サイドの告発に従えば、水原さんは窃盗ないし横領の容疑に問われることになる。ESPNはこの件に関する捜査状況を取材しようとしたが、関連当局の動きは未だに掴めていないという。被害をどこに報告したのかESPNが大谷選手の弁護士に繰り返し質問したものの、大谷選手の代理人は一貫して回答を拒んでいるらしい。拒否の理由は明らかにされておらず、憶測の余地を生んでいる。極端な話、窃盗の報告はどこにも提出されていないのではないか、という推察も成り立つ。

大谷選手は会見で、水原さんの「ウソ」を次から次へ指摘した。いずれもあまりに無計画で杜撰なウソばかりで、他人を騙し続ける才覚は微塵も感じさせない。水原さんが後先を考えない虚言癖の持ち主ということなら、確かにそういう人は世間に存在する。そうであれば、大谷選手ほど長い付き合いなら、折に触れ「コイツ時々言ってることおかしい」と虚言に疑念を持つ機会はなかったのか? それで友情が冷え切るとは限らないが、そういう人物に全幅の信頼を置き続けるとは考えにくいし、まして口座管理を丸投げするはずもない。それならどうやって水原さんに送金ができたのか、と結局同じ疑問に戻ってくる。本当に水原さんの「ウソ」はすべて嘘だったのか?

本当のことを言う人と嘘をつく人の二分論で整理しようとすると、どうしても辻褄が合わない。もし誰もが少しずつ真実でないことを語っているとするなら、パズルの断片から一枚の絵が浮かび上がってくる。最大の問題は、パズルが完成することを当事者の誰も望んでいないことである。

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