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けん玉ギネス記録 [その他]

ミシュランといえば、言わずと知れたレストラン・ホテル格付けの権威である。タイヤメーカーがグルメ界の頂点に君臨する実情は一見すると奇妙だが、ミシュランガイドはもともとフランス国内旅行の無料ガイドブックに過ぎなかった。自動車が一般に普及し始めた20世紀初め、ドライバーが愛用する旅のお供としてその歴史が始まったわけである。

奇妙といえば、ビール会社が世界記録を認定するギネスブックも不可思議な伝統である。ギネスブックのルーツは、ギネスの社長が狩猟に出かけた際に一番早く飛べる鳥は何かと議論が始まり、その答えがどこにもみつからなかった出来事に由来するという。これがのちに「世界で一番〇〇なのは?」というパブ定番の議論ネタを解決する本のアイディアを産み、通称ギネスブックとして知られるようになった。ビールの売り上げに貢献しているか定かでないが、ビール醸造の会社が世界記録集の出版を手掛けた背景はアイルランドのパブ文化に端を発するのである。

オリンピックで世界記録を出すのは並大抵のことではないが、ギネスブックの敷居はそこまで高くはない。競技種目があらかじめ決まっているオリンピックと違い、ギネスブックは自分で新種目を造ることができる。他の誰も挑戦しないマニアックな記録に挑戦すれば、一般人がギネスブックに載ることも夢ではない。試しにギネスワールドレコーズの日本版オフィシャルサイト(ここ)を覗いてみたところ、ダイソンの掃除機で50メートルを掃除する最速タイムという記録が紹介されていた(22.31秒で床に散布された重曹の99%を回収できたそうである)。世界最速も何も、50メートルを全力疾走で掃除しようと思った人が人類史上かつて誰もいなかっただけの話ではないか。もちろん、要は掃除機メーカーのキャンペーンである。

omocha_kendama.pngここ数年にわたり、NHK紅白歌合戦がけん玉連続成功数のギネス記録にチャレンジしてきた。ご自身がけん玉道四段という三山ひろし氏が演歌を熱唱する裏で、ずらりと居並ぶ名人たちが次々と技を決めていく。2022年の紅白では127人のギネス記録を達成したので、昨年末は128人で新記録に挑んだ。その場では無事記録達成と思われたが、直後のビデオ判定で16番目の挑戦者が技を外していたことが判明し、チャンレンジ失敗となったそうである。2023年の紅白は、ジャニーズ不在とけん玉騒動に見舞われた回として歴史に刻まれることだろう。

何かを始める決心よりも、いったん始めた何かを終える決断のほうが時として難しい。けん玉ギネス記録はその好例だ。しかし新記録なるものは毎回ハードルが上がっていくから、必然的に成功率は下がり続けいつか失敗するに決まっている。これを機にNHKが目を覚まし、無謀で無意味なけん玉プロジェクトを今後放棄するのであれば、16番氏の失敗も結果的に報われるだろう。たぶんけん玉チャレンジに限ったことではなく、迷走する紅白のあり方そのものを見つめ直す好い機会のような気がする。