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一平さんの事件 [スポーツ]

money_satsutaba.png水原一平さんのドジャーズ解雇という報道に仰天した。大谷翔平選手の専属通訳で良きバディだったはずの水原さんが、違法スポーツ賭博に手を出したばかりか、損失の穴埋めに総計数百万ドルに及ぶ大金が大谷選手名義で送金されたというのである。大リーグ開幕戦の祝祭感も吹っ飛ぶ、破壊力全開のニュースだ。ドジャーズお膝元のLos Angeles Timesとスポーツ系チャンネルESPNの記事をざっと読むと、だいたい次のような経緯が浮かび上がる。

捜査機関はまだ表立った動きがなく、メディアのスクープが事件発覚のきっかけだった。大谷口座からの送金データに異変を察知したESPNの取材に対し、水原さんは初め大谷選手の同意のもと損失を埋め合わせてもらったと語った。そのとき大谷選手は明らかに不満げであったが、水原さんが足を洗えるならと送金に同意した、ということである。ところが取材の翌日、大谷選手は何も知らなかったと水原さんは前言を翻した。これを裏付けるように、大谷側の弁護士は大谷選手を水原さんによる「窃盗の被害者」とする声明を出した。胴元側は弁護士を通じ大谷選手と直接の接触はなかったと明言しており、大谷選手自身が賭博に関わっていない点では証言が一致している。

現時点では、相容れない二つのシナリオが共存する奇妙な状況にある。大谷選手が自らの意志で水原さんの擦った金を肩代わりしたという当初の説明と、そうではなくて水原さんが無断で大谷選手の金を使い込んだという話である。公式には、関係者の証言は後者のストーリーに収束する様相を見せている。これが事実なら、大谷選手が補填を承諾したという最初の説明が水原さんの真っ赤なウソだったことになり、破廉恥の誹りも免れない事態である。

しかし、窃盗説にはいろいろ不可解な点がある。ESPNが把握した送金記録は昨年の9月と10月(各50万ドル)だそうだが、それほどの規模の「窃盗」が持ち主に何カ月も気付かれずに済むだろうか? そもそも、プロのハッカーでもない一般人が他人の口座に手を付けられるだろうか? 水原さんが大谷選手の資産管理を一任されてでもいない限り、かなり無理のある話に聞こえる。

カリフォルニア州では、スポーツ賭博は違法である。水原さんは違法性を知らなかったと証言しているが、ドジャーズの一員であった立場を考えると妙に脇が甘い。あり得る可能性としては、彼のギャンブル癖に目をつけた胴元が、言葉巧みに合法性を装い水原さんを巻き込んだのかもしれない。スポーツ賭博の経営者からすれば、名門球団のインサイダーを取り込む旨味は大きいはずだ。水原さん自身はさすがにメジャーリーグの賭けには関与していなかったというが、大金を擦った弱みに付け込み情報提供者のように顧客を利用する下心が胴元側にあったとしても、不思議ではない気がする。

もし大谷選手が事情を承知で送金を許したのだとすれば、下手をすれば違法賭博に手を貸した嫌疑をかけられる。そのリスクを断ち切るため、大谷選手の弁護士は窃盗被害という落としどころで話を整理したがっているように見える。水原さんにとっては、賭博と無関係の大谷選手を道連れにするのは本意でないはずだから、自分が窃盗の罪を被る覚悟を決めたのかもしれない。ESPNに直撃された当初は、動揺のあまり大谷選手に降りかかる火の粉まで想像が及ばず、経緯をそのまま話してしまったのではないか。

大谷選手はたぶん、窮地に陥った友人を救いたかっただけなのではと想像する。結果として違法賭博に加担してしまうように見られるリスクが彼の頭によぎったかどうかは、わからない。ただ、二人の関係としてわれわれが知るパブリックイメージから察するに、進退窮まった水原さんが大谷選手を裏切り私財を着服したという物語より、リスクに思い至らず(あるいは承知で)大谷選手が水原さんに手を差し伸べたシナリオのほうが、何だかありそうな気がするのである。

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