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希望は光速を超えるか [科学・技術]

0kei.png東海道新幹線は開業当時「ひかり」と「こだま」の二本立てであった。「こだま」はもともと新幹線以前に東京大阪間を走っていた在来線特急の愛称で、これを新幹線の各駅路線が継承した。一方「ひかり」は東京と新大阪間を(当初)4時間で駆け抜け、当時の常識を超える超特急であった。光波は音波より遥かに速く空間を駆け抜けるから、「こだま」を超える特急が「ひかり」を名乗るのは確かに物理的に筋が通っていた。

ところが後に、「ひかり」をさらに凌ぐ新幹線計画(当初「スーパーひかり」計画と呼ばれた)が浮上した。相対論によれば、有限の質量をもつ物質を光速以上に加速することは不可能だ。10年ほど前、OPERAという国際素粒子実験プロジェクトが光速を越えて伝わるニュートリノを発見したと報告し、業界を騒がせたことがある。しかし実験装置の不具合(ケーブルのゆるみ)に起因する誤検知だったことが後に発覚し、報告は撤回された。

超光速で進む仮想粒子は理論上は存在し、タキオンと呼ばれる。タキオンは虚数の質量を持ち、通常の素粒子とは対照的に、絶え間なく超光速で運動し光速以下に減速することはできない。何より驚くべきことに、仮にタキオンが実在すれば、一定の実験設定下で過去に情報を送ることができる。昨日の自分に通信したり明日の誰かからメッセージが届くことも、理屈の上では可能になる。ある種のタイムマシンが実現するわけだ。

仮称スーパーひかり号は「のぞみ」としてデビューした。光より速く駆け抜けるものがあるとすれば、それは希望だ、という落としどころが憎い。「のぞみ」がタキオンだとすれば、未来からの伝言を私たちに届けてくれるかもしれない。永い進化過程のどこかで時間の概念を手にして以来、不確かな未来にくよくよ悩む唯一の動物が人類だが、同時に将来の希望を糧に今を乗り越える力を持つのも私たちだけなのである。

世界は先行きが見えない不安の中で2023年を迎えつつある。もし未来から届く手紙があるなら、それは世界がこれから良い方向に変わっていくという一縷の「のぞみ」を抱かせるものであってほしい。

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