SSブログ

スピーキングが苦手な理由 [語学]

全国学力テストの結果が公表され、中学3年生を対象とした英語スピーキングの成績が断トツ低いと話題になっている。正答率はわずか12%あまり、受験者の6割がゼロ回答だったという。外国語を学ぶ過程で、書く・読む・聞く・話すの4要素のうち習得に一番時間がかかるのは一般的に「話す」なので、この結果自体とくに驚くにはあたらない。とはいえ、以前から日本の英語教育メソッドが抱える問題点を改めて浮き彫りにしたと言えなくもない。

なぜスピーキングが難しいかと言えば、自分の思考ペースで作業できるリーディングやライティングと違い、会話は容赦なくリアルタイムで進むからである。その点ではリスニングも慣れるまでは難儀するが、コツを掴んでくると全部聞き取れなくても想像を交えて意味が取れるようになってくる。母国語だって人の喋る言葉をいつも一言一句聞いているわけではないが、半ば無意識に推測で補えるから理解に困らない。聞き漏らした言葉を想像で補完できる洞察力は、リスニング能力の本質と言ってもいいくらいだ。

animal_kangaroo.png一方、スピーキングは想像で誤魔化すわけにはいかない。学力テストを受けた中学生が、頭の中で文章を組み立てる時間的な余裕がなかったと本音を漏らしていた。実はこの生真面目さこそが、日本の英語教育の失敗を示唆しているのである。外国語の初学者にとって、完璧な文章が咄嗟に口をついて出るわけがない。最初は単語の羅列で一向に構わない。それでも意外に通じるというコミュニケーションの成功体験を重ねながら、やがて文法的に正しい言葉が話せるようになればいい。でも、学校の英語教育はそういうノリしろを認めてこなかった。初めから正解を強要する学校教育のプレッシャーが、間違いを恐れて英語を話せない日本人を量産しているのである。

全国学力テストの設問内容は、国立教育政策研究所のサイトで公開されている。スピーキングの問題は、オーストラリアの留学生を動物園に案内するシチュエーションから始まる。象の次はどこに行く?と聞かれて、「We are going to see kangaroos next.」のように答えさせる問がある(設問にカンガルーの絵が描いてある)。もし文章をその場で完成できなければ、「Kangaroos next!」だけでいい。試験としては減点答案かもしれないが、文脈に照らして完璧に通じるという点で実用上は何の問題もない。

スピーキング問題の後半は、ニュージーランドの留学生が日本のコンビニでビニールのレジ袋を提供することに苦言を呈するシチュエーションである。これに対して英語で自由に意見を述べるわけだが、そもそも環境問題に関心がない子は日本語だって答えが出てこないだろうから、かなり敷居の高い問題だ。ちなみに、国立教育政策研究所の模範解答例はこれである。
I like your idea. Many people in Japan use plastic bags. We must change our action to protect environment like people in New Zealand.
なんと優等生的で退屈な解答か。たぶん全然ちがう言い分だってあり得るはずだ。
Okay, bring your eco bag if that makes you happy. But you flew here from New Zealand, right? Isn't it what you environmentalists call "flight shame"? Reality is not as simple as it looks, dude. Stop being a smart ass.
あくまで英語の試験なので主張の内容は問われないはずだが、こんな憎まれ口をたたいてちゃんと点をくれるのか、一度聞いてみたい。

共通テーマ:日記・雑感