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番外編:もやウィンにモヤッとした話 [政治・経済]

nigaoe_darwin.png自民党公式サイトに掲載されている漫画「教えて!もやウィン」の第1話で、もやウィンなる正体不明のキャラクターがこんな啖呵を切る。「ダーウィンの進化論ではこういわれておる。最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できるものである。これからの日本をより発展させるために、いま憲法改正が必要と考える。」このセリフが静かに物議を醸している。というか、失笑を買っている。

進化論をダシに憲法改正を説くのは強引だという批判もあれば、それ以前の問題としてダーウィニズムを曲解しているという指摘もある。もやウィンが引用した箴言そのものは昔から知られているが、ダーウィン本人はそんなことは言っていない。レオン・メギンソンというルイジアナ州立大学の経営学の教授が、1963年に書いた文章が元になっている。彼は『種の起源』の自己流解釈をこう述べた(参考)。

According to Darwin’s Origin of Species, it is not the most intellectual of the species that survives; it is not the strongest that survives; but the species that survives is the one that is able best to adapt and adjust to the changing environment in which it finds itself.

最後の部分の意味は「生き残るのは、変化する周囲の環境に最も適応できる種である」であって、もやウィンの「(生き残るのは)変化できるものである」は少しニュアンスがずれている。誤用の誤用か。そもそも、生物は能動的に環境に適応する術を持たない。突然変異はランダムに起こるものであり、そのうちたまたま生存に有利な形質を備えたものが生き延びる。適応できたものではなく、運良く好都合な変異を手にしたものが生き残るのだ。適応は結果論だ、というのがダーウィンの自然淘汰説である。

メギンソンの誤引用については、千葉聡教授のコラムがとても示唆に富む。真の適応力は、集団や個体内の遺伝的多様性が支えている。今は役に立たない形質や変異が、いつか思いがけない環境変化に対し威力を発揮する。反対に、多様性に乏しい集団は逆境で総倒れになる。自民党が進化論に学ぶことがあるとすれば、党内の多様な意見に等しく耳を傾けることではないか。総裁が気に入らない議員を選挙で潰すために側近の身内から新人候補者を送り込むようなことがあれば、耳の痛いことを言う人はいなくなるかも知れないが、結果として組織は脆弱になる。そんな兆候が既に始まっているような気がしないでもない。

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