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絶妙な均衡を保つ [科学・技術]

COVID19-mhlw2020-11.png夏場のコロナ第2波と現在のいわゆる第3波のはざま、9月から10月にかけて、日々の国内新規感染者数がおおよそ500人程度の前後を推移し続けていた(厚労省サイトより)。一週間周期の人為的なゆらぎを別にすれば、きれいな横ばい状態が2ヶ月近く続いている。改めて振り返ると、ちょっと奇跡的だ。

放っておけば新規感染者数が指数関数的に増大し、厳格な行動制限がかかると逆に指数関数的に減衰していくのは、数学的に当たり前のことで驚くに当たらない。不穏な兆しが見え次第直ちに社会活動の規制を敷けば拡大は抑制でき、ニュージーランドなど一部の国は迅速な政府対応が功を奏したが、日本を含め多くの国では対策を打つまで大抵もたつきがある。そもそも、感染実態が検査結果に見えてくるのに1から2週間かかるということなので、対策はどうしても後手に回る。この遅延が、第一波や第二波に見られたような山と谷を作る。

むかし学校の掃除の時間で、箒を逆さにして柄の先端を掌に乗せバランスを取って遊び、夢中になりすぎて先生に怒られた人は多いのではと思う(私だけか?)。箒が大きく左右に振れるのは追い付こうとする反応が遅いからで、寄せては返すコロナの波と同じだ。しかし、うまくいくと箒がほぼ直立状態のまま静止する。わずかにプルプルするのは箒の動きを瞬時に感知し修正するからだが、機敏に反応できる限り倒れることはない。コロナ感染対策もそのくらい機動的に運用できれば、新規感染者は増えもせず減りもせず、ほぼ一定の水準で推移するだろう。感染をコントロールしつつ社会の動きを止めない「withコロナ」を本気で目指すなら、新規感染者数が低止まりしている状態で絶妙な平衡状態を指向するのが最も合理的な対策のはずだ。

しかしウイルスに潜伏期間があってリアルタイムで感染実態をモニタリングできない以上、現実にはそこまで迅速な対策は打ちようがない。ところが不思議なことに9月から10月の2ヶ月間、日本ではなぜか見事な均衡が持続していたのである。もしこれが偶然の産物でないとすれば、何が起こっていたのか?根拠のない憶測に過ぎないが、日本固有の「同調圧力」が絶妙なバランス感覚の礎を築いていたのではないか。GoToキャンペーンというお上のお墨付きを得て心理的な呪縛が解けたが、しかしマスク警察に睨まれるのは鬱陶しい。旅に出ても食べに出かけても後ろ指を指されることはなくなったが、羽目を外しすぎると周囲の視線が冷たい。そんな微妙な温度感が中庸指向を促し、箒が右にも左にも倒れないポイントにハマったのではないか。

だが季節が徐々に冬に向かうにつれ、夏場や秋口と同じレベルの対策意識ではバランスが保てなくなり、針が感染拡大に触れ始めた。増えてしまった以上いったんちょっと締めて感染数を巻き戻した上で、低温低湿の環境に合わせた新しい平衡点を模索しないといけない。9月や10月よりは強い緊張感が求められそうだが、個人レベルでできる対策を私たちは今やたくさん学んでいる。GoToを止めるとか止めないとか政府と自治体が侃侃諤諤だが、政策が決まるのを待つより、目指すべき平衡点に自ずと軟着陸する肌感覚を私たち自身が研ぎ澄ます方がいい。春先には緊急事態宣言が出される前から実効再生産数は減り始めていたという話もあったし、先生に見つかって怒られるよりも早く箒をピタリと立ててしまう一芸に私たちはもともと長けているようである。

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