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キイュイヴ [語学]

food_peking_duck.png北京はカナ表記ではペキンだが、英字ではふつうBeijingと綴られる。しかし、北京大学はPeking University、北京ダックはPeking duckである。中国都市名のアルファベット表記に標準が二通りあって、以前はウェード式(北京=Peking)を採用していたが、あるとき中国政府がピンイン式(北京=Beijing)に切り替えたというのが公的な事情のようだ。発音を外国語で正確に表す難しさが、英字表記のブレを生む。

ChinaとかJapanのように、現地語の呼称と直接関係のない英語名が国名として定着しているケースもある。日本語にも英国とか米国など独特の呼称で外国名を表現する慣習があるが、これはもともと英吉利とか亜米利加のように(無理矢理感は否めないとは言え)外国語の表音を真似ようとした名残である。現地の言葉を尊重するなら日本の英名はNihonまたはNipponとするべきと思うが、その場合はニホンとニッポンのどちらが正統かという別の問題が発生する。これは「どちらでもいい」というのが公式見解のようである。漢字にすれば同じなので読み方は自由でも混乱はないということかと思うが、英字アルファベットに転記すると別の固有名詞に見えてしまう。漢字を知らない外国人に、NihonとNipponは同じと納得してもらうのは容易ではないかもしれない。結局、実用的にはJapanと呼んでおくのが明快で便利ということか。

ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、欧米の報道ではKievの代わりにKyivと綴るほうが一般的になりつつあるようである。ムソルグスキーの『展覧会の絵』最終曲がふつう『キエフの大門』と呼ばれるように、国外ではウクライナの首都はずっとキエフという名称が馴染んでいた。しかしKievはロシア語起源の呼称であり、ウクライナ語の名を英字アルファベットに転記するとKyivになる。ソ連崩壊後の1995年にウクライナ政府はKyivを公認表記に定めたそうだ。カタカナではキーウと書かれることが多いが、Youtubeでウクライナ語の発音を聞いてみると「キイュイヴ」のように聞こえる。外国人には容易に真似しづらい難度だが、とくに現在のような情勢下で母国の都市を何語で表現するべきか、現地の人々にとって極めて大切な問題にちがいない。

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