SSブログ

人類はウィルスと共存できるか [科学・技術]

メディアは連日、新型コロナウィルスの話題で持ちきりである。感染者が出たクルーズ船が帰港を前に2週間の隔離措置をくらい、とくに窓のない内部屋で軟禁状態にある乗客が気の毒でならない。もしカルロス・ゴーン氏がこの船に乗っていたら、きっと密かに荷物に紛れて脱出し、記者会見を催し不満をぶちまけるだろうか。ウィルス拡散は自分を貶める陰謀だと言い出すかも知れない。

virus_mers.png湖北省を中心に中国では600人超が亡くなっているので現地の緊迫ぶりは想像に難くないが、対照的に国外の死者は依然数えるほどしか出ていない。感染者数全体は各地で日々増えてはいるが、(少なくとも現時点では)ウィルスの致死性がさほど高いような印象は受けない。武漢市で犠牲者数が突出している背景には、ウィルスそのものより現地の医療体制が需要に追いついていない事情があるようだ。断片的な情報から結論を急ぐべきではないが、不安にかられた市民が病院に殺到した余波で重症患者のケアに手が回っていないのだとすれば、ウィルスの猛威というより人為的な2次災害の側面が強いことになる。現地の医療スタッフにのしかかる負担は想像を絶する。

中国全土からの渡航を早々と禁止したアメリカだが、今季インフルエンザによる死者が米国内で1万人を超えたというから、犠牲者数だけで判断するならインフルエンザのほうが桁違いに脅威のはずである。それでも新型コロナウィルスにことさら神経を尖らすのは、感染力や重症化のリスクが未知数であることや、ワクチン含め治療法が確立していない事情が大きいと思われる。ウィルス自体の致死率が低いことが分かっても、インフルエンザなら毎年経験しているからそんなものかと思うだけだが、新型ウィルスは経験値がないので悪い方に想像が膨らみ出すと止まらない。私たちは、リスクの実態より不確実性の大きさに強い不安を喚起されがちである。

ウィルスは奇妙な生き物で、自律的な自己複製機能を持たないので他の動植物の体内でしか増殖できない(この点をめぐりウィルスはそもそも生物なのかという議論がある)。ダーウィニズム的にはウィルスの存在目的は子孫繁栄であって、患者を苦しめることが狙いではない。高熱が出るのはウィルスの仕業というより免疫機能が引き起こす生体防御反応だし、まして患者を死亡させてしまえばウィルス自体もダメージを被りかねない。無症状のまま気付かれずに増殖するのがウィルスの生存戦略としては最も効率的なはずだし、もちろん罹った患者もその方が楽だ。実際にインフルエンザだって感染に気づかぬまま治っていることも少なくない。発症し寝込んだり合併症で重症化したりするのは、患者にとってもウィルスにとっても想定外の不運という他ない。

人類にとってはウィルスなど永遠に撲滅されるに越したことはないが、それが叶わない以上ウィルスと労使交渉して、彼らの増殖に「胸を貸す」代わりになるべく無症状か軽症に抑える配慮を要請したいものだ。ウィルスが体力に余裕のある健康な人を選んで感染するだけで、重症患者はぐっと減るだろう(選ばれた人はいい気分はしないが無症状なら実害はない)。労使と言ったが身を削って奉仕するのは人間の方なので、私たちが労働者でウィルスが使用者である。新型ウィルスに散々振り回されている現状は、さながらブラック企業で酷使される様相を呈しているが、折しも働き方改革で労働条件改善が叫ばれるご時世、人類とウィルスが上手に共存する生態系モデルを追求してはどうだろう。そもそもウィルスに聞く耳があるか定かではないが。

共通テーマ:日記・雑感