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COVID-19自由研究その2 [科学・技術]

新型コロナウィルスが欧州と米国で感染拡大し、外出禁止令を含む異例の行政措置が各地で取られている。人の動きがあれば世界中にたちまちウィルスが広まるのは容易に想像できるが、国によって致死率にかなり差があることが明らかになりつつあり、その要因は自明ではない。国内外の感染者数と死者数の推移は、例えば日テレ系のサイト(データとグラフで見る「新型コロナウィルス」)が非常に見やすくまとめている。ただし一番知りたい致死率のプロットが示されていないので、自分で生データを掘り起こすことにした。本稿では、EUの専門機関ECDCのサイトが提供するデータを元に致死率を解析する。他機関のデータと見比べると数値が厳密には一致しないので若干不確実性はあるが(各日の集計のタイミングなどで誤差が出るのかもしれない)、大勢は動かないのでここでは問わない。なお、グラフの目盛りが小さくて読みづらい場合は(老眼が進んでいるのは私も同じです)、図をクリック/タップして拡大版を表示してほしい。

COVID19-China.PNG中国:震源地である中国の感染者総数(各日までの累積値)を棒グラフ(目盛りは左軸)で、致死率(死者総数÷感染者総数の百分率、右軸)を折れ線で示したのが右図だ。2月下旬から感染者の増加率が鈍り、3月に入るとほぼ横ばいになり、ニュースでも伝えられるように中国での感染状況は収束の様相を呈している。回復した患者数は集計に入っていないので、現実の感染者数は減り続けていると思われる。致死率は感染者数の収束後も緩やかな増加が見られるが、感染が確認されてから患者が亡くなるまでに一定の日数がかかる時間差が見えているものと推察する。今では致死率はほぼ4%に落ち着きつつあり、WHO報告書が示した中国全土の致死率(約3.8%)と整合的である。

COVID19-Italy.PNGイタリア:中国に次いで感染者の多いイタリアの統計がこちらだ。上図と同じく2月1日から3月19日までの期間のグラフだが、中国よりかなり遅れて感染が急拡大した様子がひと目で分かる(なお感染者数が少ない当初は致死率の統計ノイズが大きいので、感染者が100人を超えた日から致死率を表示している)。致死率もじわじわと増加を続け、現時点で8%程度のかなり高い値を示している。死者数はついに中国を超えたというが、イタリアで何が起きているのか?感染者増加が止まらない状況下で致死率が上がり続けるのは、収束に向かう中国と違って時間差では説明できない。高い高齢者率や医療インフラの脆弱性など、イタリアの社会構造に固有の問題が報道でも指摘されているが、歴史ある先進国でそこまで医療崩壊が起こっていることは少なからず衝撃である。

COVID19-SKorea.PNG韓国:イタリアに先立ち蔓延の危機が注視されていたのが、韓国である。データを見ると、2月下旬から3月上旬にかけて感染者数が急激に伸びたが、3月10日辺りから増加率が鈍っているようである。中国やイタリアと大きく異なるのは致死率の低さで、1%程度に留まる。医療が機能しているのだと思うが、韓国では速やかに広範な検査体制が敷かれたことで知られ、母数の多さが致死率を疫学的に妥当な値近くまで押し下げている側面もあるだろう。致死率はじりじりと上昇しつつあるが、中国のデータで見られたように感染から死亡まで時間差があるので、感染者増加の鈍化にいくらか遅れて致死率もやがて頭打ちになっていく可能性もある。

COVID19-Germany.PNGドイツ:あまり報道されていないが、注目すべきはドイツの統計である。3月に入ったあたりから急激に感染者数が伸びたのは他の欧州諸国と同じだが、致死率が0.2%から0.3%程度と圧倒的に低く、そこから値が跳ね上がりそうな気配もない。感染者総数は1万人に迫る勢いでお隣のフランスと変わらないが、フランスの致死率が2%前後で推移しているのに比べ対照的である。ドイツにも高齢者や有疾患者は大勢いるはずだから、医療体制が格段に優れているのか、ドイツ特有の疫学的要因があるのか、またはデータの集計方法に他国と違いがあるだろうか。背景情報が少ないので確信はないが、適切な社会インフラが整えば新型コロナの致死率は0.2-0.3%程度に抑えられるという証左ではないのか。

COVID19-USA.PNG米国:欧州でのアウトブレイクから一週間ほど遅れて米国で爆発的に感染が拡大し、感染者数がたちまち9千人を超えた。ただし致死率の推移が他地域と異なり、当初の高値からほぼ一方的に減り続けて今や2%を切った。国民皆保険制度が不備な米国ではとくに低所得者層で医療機関を敬遠する傾向にあり、軽症ではデータに上がってこないケースも多いだろう。推測に過ぎないが、新型コロナへの懸念が米国社会に広まってから当初見えていなかった軽症患者が続々と検査対象に入ってきたのであれば、分母が急に増えて致死率が下がったということもあり得る。しかし時間差を持って今後死亡者が増え始め、やがて致死率も増大に転じるという気がかりな可能性も否定はできない。

COVID19-Japan.PNG日本:最後に、日本の状況を振り返りたい。連日報道さているとおり、国内の感染者数は増加を続けているが千人に満たず(クルーズ船は含まず)、欧米の主要国に比べて一桁少ない。PCR検査件数が人為的に抑えられているので感染の実態を過小評価しているとの批判が根強い一方、国側は感染者数の統計は妥当であると反論する。ただし、この統計から算出される国内の致死率は3%に達しており、フランスや米国よりも高い水準にある。 COVID19-fatality.png本稿で触れた7カ国の致死率データの中では、日本のコロナ致死率は今やイタリア、中国に次ぐ高い水準に躍り出た(右下図の白線)。武漢を含む中国の致死率が4%程度であったことを思い返せば、3%は医療崩壊の兆候を疑われかねない数値だが、もちろん現時点で日本の医療システムは健全に機能しているから、感染者数の母数が実態を反映していないと考えるほうが自然である。検査対象をむやみに増やすのが望ましいとは全く思わないが、実際の感染者数は統計に上っている数値よりかなり多いことは間違いなさそうである。なお感染者数の増加率がここ数日鈍り始めているように見えなくもなく、それが収束の兆しだとすれば出口の光が見えたことになるが、なにぶんデータに見えていないサンプル規模が大きいので何とも断言しようがない。

まとめ:ニュースではイタリアやスペインなど感染拡大が深刻な状態にある国々に焦点が当たりがちで、それはそれで大事なことだが、対策のヒントとしては感染者が増えながら死者数が低い水準を保つドイツのような国からもっと情報収集するべきではないか。オーストリアやスイスも今のところ低い致死率を維持している。国境を接していながらゲルマン系の地域で致死率が低くラテン系の国で高いように見えるのは、気のせいだろうか?人と人との距離感が近く口角泡を飛ばして会話する人たちほど飛沫感染のリスクが高いのか、とか言いそうになるが文化的偏見に過ぎないと思うので、専門家にきちんとした分析をして欲しい。

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