SSブログ
2024年04月13日| 2024年04月16日 |- ブログトップ

一平さんの事件 その5 [スポーツ]

document_sojou.png他に書くネタが見当たらないので、性懲りもなく水原一平事件を掘り下げたい。36ページに及ぶ告訴状(PDF)をつらつら眺めていたら、あまりメディアで取り上げられない細部で興味深い点がいくつか目に付いた。

G章(21ー23ページ)に水原さんが大谷選手を騙り銀行に電話した記録の具体例が載っている。一度目は2022年2月2日で、彼がオオタニ口座の連絡先を自分の管理下に変更した直後に当たる。自動車ローンと偽り送金を試みたが、チャレンジ失敗でオンライン取引がロックされた。同じ日に再び電話して別の担当者と話し、本人確認の質問事項をパスして凍結解除に成功した。数日後、再び電話して30万ドルの送金を試みたが、未遂(attempted)に終わったようである。

この3回に関しては、ロック解除の一度を除くと「大谷サンのフリ」作戦は基本的に失敗している。訴状の脚注には、大谷選手を騙る水原さんの音声は流暢な英語を喋っていたとある。大谷本人ならネイティブ並みの英語は話せないはずとピンときたかは定かでないが、対応に出た銀行員は何かがおかしいと判断した様子である。とはいえ、やがて同じ口座から水原さんによる高額送金(50万ドルずつ)が繰り返されるようになる。不審電話の履歴がありながら結果的に度重なる不正出金を見逃したのは、銀行側も脇が甘かったのではないか? 

訴状のI章(26ー30ページ)で、大谷選手のエージェントや資産管理チームに聴収した結果が載っている。オオタニ口座へのアクセスを「大谷選手がプライバシーを望んでいる」という建前で水原さんが独占していたことは、すでに報道されているとおりだ。しかし、利子収入や贈与の出金があれば納税義務が発生する。大谷選手の経理担当者、フィナンシャルアドバイザー、税理士はいずれもこの点を指摘したが、水原さんはオオタニ口座に利子は発生せず贈与もなかったと説明したそうである。

それでチームが「ああそうですか」と引き下がったのなら、恐ろしくヤル気のない人たちである。高額資産を丸ごと無利子口座(Checking account)に放置しておくなど、常識では考えられない。フィナンシャルアドバイザーは、適切な資産運用をクライアントに勧めるのが仕事のはずだ。それに、Tax Return(米国の確定申告)の時期になると銀行は利子収入の証明書を発行するので、私が税理士ならせめてその書面だけでも見せて欲しいと言うだろう(そこに取引履歴は載らないのでプライバシーは漏れない)。それすら水原さんが却下したなら、さすがに不審に思うべきだ。下手をすれば大谷選手が脱税に問われかねない案件であり、そういうことが起こらないために税理士が付いているはずではないか。

訴状のK章(31ー33ページ)では、送金に大谷選手の同意を得ていたとする水原さんの証言に疑念を示す捜査官の意見が示されている。その最後の文章がこれだ。
Further, I do not find it credible that Victim A would have agreed to pay MIZUHARA’s gambling debts from the x5848 Account while allowing MIZUHARA to deposit the winnings from his gambling into MIZUHARA’s bank account.
さらに、水原の賭博勝ち金がミズハラ口座に振り込まれることを許容しながら、賭博負債をx5848口座(=オオタニ口座)から支払うことに被害者A(=大谷選手)が同意するとは、考えられない。
これを読んだ時なるほどと思ったのは、仮に大谷選手が水原さんのギャンブル損失を払ったなら、勝った儲けの分け前も要求するはずだ、という前提に捜査側は立っているのである。そういう視点で訴状を読み返すと、捜査官の言葉遣いにいろいろ納得がいく。(もともと金に執着のない)大谷さんが水原さんがギャンブルから足を洗えるようにと自腹で損失を埋めた、という当初ESPNから出て来た物語を、わざわざドライに再解釈した上で大谷選手の関与を否定しているのである。結論としては大谷選手の潔白を証明する訴状ではあるが、同時に日本人が考えるピュアな大谷像がアメリカでは共有されていない事実を図らずも象徴している点が面白い。

共通テーマ:日記・雑感
2024年04月13日| 2024年04月16日 |- ブログトップ