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天気のうつろい、時の流れ [語学]

今年は7月にやたらと雨が降り、8月に入ると今度はずっと暑い。日照不足の冷夏では農作物が不作になり、かんかん照りの酷暑では熱中症の危険が増す。気温が高すぎても低すぎても、何かと厄介だ。

temperature(温度)という言葉は、気質や気候が穏やかで程よいことを示すtemperateとよく似ている。熱すぎる風呂を冷水で埋めるように、熱はおのずと高温と低温の差を打ち消すように流れ、中程の温度で熱的な平衡に達する。人の気分や気質を表すtemperも、同じ語源のことばだ。もともとこれらの語は、両極端が混じり合って中和し中庸を指向する語感を持っていたのだろうか。だが今年の夏のように気温は絶えず上下に揺らぎ続け、コロナ禍のなか人の気分は浮き沈みを繰り返す。中庸は永遠に到達できない理想郷で、だからこそ価値がある美徳なのかも知れない。

tempで始まる単語は、temperatureやtemperの他にもたくさんある。temporal(時間の)とかtemporary(一時的な)など、時の概念を表す言葉が多い。音楽用語のtempoもその一つだ。ラテン語で時間を意味するtempusが語源だそうで、現代フランス語でも時間は「temps」と言う。tempusには時間の他に季節の意味もあり、初めの季節を意味するle premier tempsがle printemps(春)になった。

arashi.png面白いことに、フランス語の天気に相当する語は、時間と同じtempsである。一見全く違う概念に、どうして同一の言葉を当てたのか?ラテン語で時間と季節を同じ単語で表現することから想像するに、時計を持たなかった古代の人々は、自然の営みが時間の変化を知る手掛かりだったのではないか。だから、日々体感する気象に時の流れを肌で感じていたのかも知れない。青空にもくもくと湧き起こる入道雲、夕立の予感を乗せて吹き付ける冷たい突風、そして突如叩きつける大粒の雨。嵐を意味する英語のtempest(仏語のtempête)の中にも、はっきり「時間軸」が刻印されている。

日々の天気を彩る陽射しや雨は、二重の意味で天の恵みである。降り注ぐ光と水は地上の生命を遍く育み、その移ろいが人間に時間の意味を教えた。

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