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総理、残念です [政治・経済]

kazari_kamifubuki.png安倍総理が首相を辞任する意向を表明した。私はとくにこの人のファンではないが、歴代最長を記録した在任期間にわたり、身を粉にして公務にあたってこられたことは間違いない。一刻も早い体調のご回復を祈る。

安倍総理は真面目な人だ。小泉元首相のような茶目っ気はないが、麻生元首相のように言わなくてもいいことを口走る悪ノリもしない。保守層からは手堅い信頼を集めるが、世論調査では決まって支持しない理由の上位に「人柄が信用できない」が挙がる。飲み会で世間話でもすればきっと気さくで優しい人なんじゃないかと想像するが、国会で答弁に立つと野党の挑発にキレて早口でまくし立てることもあり、しなやかさを欠くきらいがある。政治家はそれで良いといえば良いのだが、総理は生真面目すぎるのか、ときどき「残念な人」の雰囲気を醸し出す。

アベノミクスという命名が残念である。もし瀬古さんという人が作った政策がSeconomicsなら語呂合わせになるが、アベノミクスとエコノミクスではまるで頭韻を踏まず、造語センスを感じない。誰が命名したのかわからないが、総理ご自身ニューヨーク証券取引所の演説で「Buy my Abenomics!」とかマイケル・ダグラスを気取ってブチ上げておられ、なんとなく胡散臭い。アベノ「マスク」という呼び名があれほど人口に膾炙したのは、もともとアベノミクスの語感がはらむどこか浮ついた感覚が、国民のニーズから乖離した布マスクのズレっぷりと絶妙にマッチしたからと思われる。

東日本大震災の2年後、安倍首相は東京オリンピック招致のプレゼンでスピーチをした。芝居がかった気配が見ていて気恥ずかしかったのはさておき、冒頭すぐ後の科白が残念だった。「Some may have concerns about Fukushima. Let me assure you, the situation is under control. It has never done and will never do any damage to Tokyo.」根拠も示さず絶対に大丈夫と安請け合いしていいのか、と不安に思った人は多かったのではないか。むしろ、福島の人々とともに真摯に原発事故問題に取り組んでいます、その成果に期待して下さい、と言っていたら、もう少し誠実な印象を与えたのではないか。リオデジャネイロの閉会式でマリオに扮して登場した安倍首相のビミョーな佇まいに、なぜかあの時の演説に感じたかすかな違和感を思い出した。

第一次政権の時に安倍総理が盛んに口にしていた「美しい国、日本」というスローガンが、今思えばトランプ大統領の「Make America great again 」とよく似ている。実際、この二人には多くの共通点がある。良し悪しを別として、愛国心を揺さぶる明確なビジョンとロードマップがあり、その実現に邁進する努力を惜しまない。自身の信念に一片の疑いもないので、批判には一切動じない。この安定感が、安倍首相の長期政権を支えた要因の一つだったのだと思う。しかしこのタイプのリーダーは、平時には強いが不測の危機に脆い。新型コロナのパンデミックは「美しい国」プランに書かれていなかったから、既定路線のなかに正解がない。ずっと強気に先頭を走ってきたので、誰を頼るべきか、どんな意見に耳を傾れば良いのか、経験値がなかったのではないか。専門家会議改め分科会との奇妙な距離感は、最後まで埋まらなかった。その結果、官邸お墨付きのコロナ対策は迷走を繰り返す。アベノマスクしかり、給付金しかり、GoToキャンペーンしかり。残念な政策が次々と打ち出され、そのたびに物議を醸した。

8月3日、安倍総理はずっと愛用してきたアベノマスクを突如やめ、大きめの新しい布マスクで官邸に現れた。今思い返せば、持病の悪化から辞任を覚悟し始めておられた頃ではないかと推察する。首相の対コロナ政策を象徴するアベノマスクと自ら訣別したとき、総理の胸中にどんな想いが到来していたのか。次期党総裁が決まるまでまだ少し任期が残っているが、長い間お疲れさまでしたと申し上げたい。

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