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学術会議の任命問題 [政治・経済]

日本学術会議がにわかに注目を浴びている。任期満了に伴う新規会員の指名に当たり、学術会議側が推薦した105名中6人の任命を首相が拒否したということである。前例のない事態だそうだが、首相側は現時点でその理由を明らかにしていない。任命されなかった6人の方々はいずれも人文・社会科学系の研究者で、反政府の立場をとる学者の強権的な排除ではないかと憶測が飛んでいる。どの学者がどんな学説をお持ちか菅さんが逐一ご存知だとは思えないので、資料を上げる役人が忖度して入れ知恵したのかも知れない。

kaisya_ayatsuru_joushi.pngこの事案で、黒川前検事長の定年延長問題を思い出した。政権寄りと言われた黒川氏を検事総長に起用するため、法務省の人事案を無視し官邸がひねり出した奇策だったということになっている。当の黒川氏がご趣味の賭け麻雀で足を滑らせご破算になったが、官邸による官僚支配の露骨な実例としてしばし世を騒がせた。長らく官僚の人事は霞が関の意向を尊重することが慣例だったが、安倍政権は人事権をちらつかせて官僚を操る官邸主導政治を敢行し、その結果官僚の忖度を誘発してモリカケ問題を生んだと囁かれている。その中心にいたのが、安倍政権の官房長官だった今の菅首相というわけである。週刊誌的な整理なのでどこまで正しいかわからないが、菅総理が官僚心理の弱みを心得た老獪な策士であることはたぶん間違いないだろう。

もし官僚を手懐けるのと同じ手管で首相が学術会議をコントロールしようしたのだとすれば、いくつか誤算があったのではないか。第一に、同じ行政機構の中で一定の緊張をもって協力する内閣と省庁の関係と違って、学術会議は行政機能の一部ではない。政策提言は行うが、何の権限も権力もない。社会的使命感や政治的上昇志向の強い学者は学術会議の肩書にこだわるかも知れないが、役職上は非常勤の兼業に過ぎず、官僚のような人事系インセンティブがそもそも薄い。第二に、研究者は正しいと思ったことは黙っていられない性分の人が多く、忖度とかややこしいことを考える思考回路がない。戦後まもなく設立された日本学術会議は、科学が国家に対して負う責任と距離感を強く意識し続けてきた組織である。政府が学問の自由に介入したと解釈されかねない暴挙に出れば、蜂の巣をつついたような騒ぎになるのは当たり前だ。

中曽根元首相は、学術会議が推薦した会員を政府が取捨選択することはしないと明言していたそうである。戦争を体験した世代として、学問の自由に対し格別の想いと責任感をお持ちだったのかも知れない。人間の器が違うのはどうしようもないが、菅さんご自身の思惑に照らしても今回やり方を間違えたように思えてならない。理由は何であれ、任命拒否をやってしまった挙げ句説明の意思も見せない塩対応で通したものだから、どこの局も(トランプ大統領感染の一報に次いで)トップニュース扱いだ。おかげで、学術会議にとっては予想外の宣伝キャンペーンになったし、任命から外された学者たちは全国ネットで主張を語る機会を得た。菅さんは今頃、どうしてこうなったかとヘソを曲げているのではないか。

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