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査読前の論文ですよね [政治・経済]

document_research_taba.pngGo Toトラベルに参加した人はそうでなかった人よりもコロナ的症状を訴える人が多かった、という論文に政府が噛み付いているようである。加藤官房長官は会見で「個々の論文にコメントはできない」と言いつつ、Go Toとコロナの因果関係は断定できない等々の限界を著者自ら認めてますね、とちゃっかりコメントしている。西村大臣も基本おなじ塩対応で、症状を自己申告したアンケート調査であってPCR検査はやってないでしょ、と強調した。そして二人とも、まだ査読前の論文ですよねとそろって念を押した。

論文が査読前ということは、業界内の検品がまだ終わっていないということである。蓋を開けてみればトンデモ論文かもしれないし、画期的な研究成果かもしれないし、その時点ではシロでもクロでもない。普通は門外漢が公の場で査読前の論文にコメントすることはないし、するべきでもない。研究の限界を著者が自己分析するのは論文では当然の考察ポイントで、それだけを強調して成果の信頼性を疑問視するのはフェアではない。官房長官や大臣の立場におられる政治家が、データ分析の専門家でもないのに論文の内容に立ち入った感想を公式会見の場で述べるのは、筋が違うのではないか。

Go Toトラベルが感染拡大の主要因であるエビデンスは現在のところ存在しない、とはもともと分科会の見解(アドバイザリーボード11月24日資料3)である。官邸サイドはこれを気に入って一つ覚えのように復唱しているが、言うまでもなく「Go Toのせいだという証拠がない」からと言って「Go Toのせいじゃないという証拠」にはならない。キャンペーンと感染率の関連について組織的な調査自体がずっと行われてこなかったのだから、分科会としては他に言いようがない。そこで簡易的な方法ながら実際に調査してみたのが冒頭の論文で、その結果やっぱり関連があるらしいと結論が出たわけだ。相関は必ずしも因果関係を示唆しないから、調査結果をもってGo Toのせいと言い切れないのは原則論としてそのとおりだが、素朴に考れば旅行に行けば外食もするのだから、旅行に行かない人より感染率が高くてもちっとも不思議ではない。

Go Toを止めたくないのであれば、キャンペーンが感染を拡大させるリスクをまずきちんと分析し、実態を把握することが政策判断の基礎となるはずだ。そこでつまづいているので、感染爆発か経済かという二元論に右往左往するばかりで埒が明かない。官房長官や経済再生担当相の立場としては、「国民の安全に資する政策改善のためこのような研究をどんどん進めて下さい」と(たとえ建前だとしても)奨励すべきと思うのだが。こともあろうか「査読前の論文ですよね」などと嫌味レベルのコメントしか出てこないことに、脱力感を覚える。