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第5波の予感 [社会]

drink_sake_sakazuki.png金融機関や卸売業者を使って飲食店の酒提供を制御しようした政府の企みが顰蹙を買い、案の定すぐに頓挫した。感染対策なのだから本来は政府自ら規制に乗り出すべきところ、嫌われ役を民間に押し付けようとする発想がセコい。想像するに、政府は業者からの反発は想定していたかも知れないが、社会全体から総スカンを喰らうとまでは思っていなかったのではないか。マジメに要請に従い苦境に耐える店と、要請破りで荒稼ぎする店という善悪対立の構図を前提に、世論は後者への「お仕置き」に加勢すると政府が踏んでいた気がする。だが、目論見は完全に外れた。

酒提供停止や時短の要請を堂々と拒否する飲食店が、少しずつ増えているようである。少し前だったら、抜け駆けはアングラでひっそりやらないと、世間の眼は冷たかった。しかし今回、メディアにマイクを向けられた酒卸業者の多くは、長年付き合いのある飲食店の信頼は裏切れない、と西村大臣の要請を一蹴した。メディアがそういうコメントを好んで収集している気配もあって、つまるところ「要請破りの正義」に追い風が吹き始めたのである。西村大臣は、図らずもパンドラの箱を開けてしまったのではないか。酒を出して深夜まで店を開けても世論は味方につく、という機運が飲食業界の中で高まっていけば、ただでさえガタついている緊急事態宣言は完全に有名無実化するだろう。

そんな中、開会式を来週に控え五輪関係者が続々と来日している。入国後しばらくは厳しい行動制限が課されるが、そこに国際スポーツ記者協会(AIPS)のメルロ会長が嚙みついた。彼はオンライン会議のスピーチで、海外の記者は敵ではない、日本のおもてなしはこんな冷たいものではないはずだ、と訴えている(AIPSのサイト)。心情はよくわかるが、スピーチの中程に不可解な一節がある。「(日本の人々は)我々が外出するのを写真に撮ってネットに晒すよう促されているんですよ。考えられます?我々の一挙一動を見張って、規定違反の疑いがあればネットに上げるよう国民に要請するなんて?全くイカれてますよ、人種差別につながりかねません。」自粛警察を買って出るネット民はちらほら出てくるかも知れないが、積極的に海外ジャーナリストを監視させる動きなど聞いたことがない。こんなガセネタをどこで掘り出したのか不明だが、記者協会の会長自らフェイクニュースをばら撒いてどうするのか。

メルロ会長は、海外記者はワクチンが遅い日本の失政のツケを払っている、と言い切る。批判の当否はさておき、日本よりはるかにワクチン接種が進んでいるはずの英国や米国は、人口あたり新規感染者数で未だ日本よりずっと高い水準にある。感染率の高い国から多くの人々がやって来れば、国内の感染拡大リスクを悪化させるのは数字の上では自明である。五輪関係者は14日隔離が3日で済む特例を享受できる以上、無粋なおもてなしとは言え動線が厳しく管理されるのは我慢してもらう他ない。

記者協会トップがこんな様子なので、規制にウンザリした海外メディア関係者の中には、お忍びでバブルを突破する輩もいそうである。そして彼らが彷徨い歩く先には、やはり規制に疲れ通常営業する店で赤提灯が夜風に揺れている。誰かを責めるつもりはないし、彼らが第5波の火に油を注ぐと決まったわけでもない。が、東京都の感染者数が第4波のピークをあっさり超えた今、何となくカオスの到来を予感させる展開ではある。

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