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英国の社会実験 [政治・経済]

英国で、各種大規模イベントを舞台にした大掛かりな感染リスク調査が行われてきた。参加者には、ワクチン接種の完了か直近の陰性証明の提示などの条件が課される。その代わり、基本的にマスクの義務も入場者数の制限もない。調査結果をまとめた英国政府の記者発表をwww上で見ることができる(ここ)。

F1グランプリには3日間で35万人の観衆が参加した。追跡調査でイベント参加者から585人の感染が確認され、そのうち343人はイベント時点ですでにウイルスに罹っていたと思われ、残る242人がイベント中に感染したとされる(症状発生日の聞き取り調査などをもとに判断しているようである)。同じ期間通算のイギリス国内の陽性率は1%台だったことを鑑みると、低い水準に留まっている。一方ウィンブルドンには2週間で通算30万人が集結し、881人の陽性が明らかになった(うち582人がイベント中に感染)。こちらも全国平均の陽性率と比べ低めの数値で、イベントそのものが感染拡大を後押しした痕跡はない。

soccer_stadium.png様相が異なるのがサッカーのユーロ2020だ。イングランドとイタリアが対戦する決勝戦がロンドン郊外で開催され、地元はとりわけ盛り上がった。スタジアムの中だけではなく、試合前後にスタジアム周辺の通りやパブに押し寄せるサポーターの熱気は、F1やテニスの比ではない。その結果トーナメントを通じて合計9,000人を超える感染者が確認され、決勝戦だけで3,400人を超える新規感染者を出したとされる。政府見解としては、ユーロ2020のような特殊例を反省材料とした上で、基本的にはワクチンや陰性確認を前提として大規模イベントを安全に開催することは可能という結論のようである。メディアでは政府より慎重なトーンの分析も見られる(例えばガーディアン紙)。ちなみにユーロ2020の決勝戦はイタリアが征したが、仮にイングランドが優勝していたら、はっちゃけ過ぎて感染者数は9,000人では済まなかったかも知れない。現地の人々にとっては、負けて良かったのか悪かったのか微妙なところだ。

日本でも昨年、Jリーグやプロ野球の会場でマスク着用率などを調べる社会実験をやっていた。だがこれは対策の有効性を試すもので、感染実態を確認する(感染者数を追跡する)ところまで踏み込んでいない。折しも感染者数・重傷者数ともに過去最悪を記録する第5波のさなか、フジロックのように感染対策を取りながら敢行したイベントもある。イギリスの実証実験のように、フジロック参加者の事後検査や聞き取りなど追跡調査を組織的に行えば、現時点での感染リスクやワクチンの有効性を実証する絶好の機会だったのではないか。

そういった調査は国が主導して行うのが筋と思うが、残念ながら科学的なデータを突き合わせて政策立案の礎とする合理的思考が日本政府にはない。しかし、緊急事態宣言を出したり引っ込めたりする生活を、永遠に続けるわけにはいかないのである。下がり続ける内閣支持率のグラフなんかより、パンデミックの出口に向けて私たちが今どこにいるのか、客観的にわかるデータが見たい。

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