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トンガ噴火が引き起こした津波のようで津波でない潮位変動の話 [科学・技術]

先週末はいろいろびっくりすることが起きた。共通テスト中の東大キャンパスで起きた刺傷事件にも衝撃を受けたが、トンガの噴火が引き起こした津波にはもっと驚いた。Hunga Tonga Hunga Ha'apaiという火山島が吹っ飛んだそうだが、「フンガトンガフンガハアパイ噴火」などほぼ早口言葉である。アイスランドで2010年に噴火し欧州の航空路線をしばらく休止に追い込んだエイヤフィヤトラヨークトル(Eyjafjallajökul)もそうだったが、海外の火山はなんで簡単に読めない名前がつくのか。「富士山」とか「阿蘇山」のような潔い名称じゃだめなのか。

kazan_funka_magma.png気象庁は当初、日本には噴火による津波の影響はないと発表していた。しかし想定外の早さで想定外の潮位変動が観測されるに到り、土曜日深夜に太平洋岸全域に津波警報・注意報を出した。夜更けに突然スマホが騒いで仰天した人も多かっただろう。沿岸域の一部で係留中の船や養殖場などに物損被害があったようである。気象庁の弁明がちょっとおもしろくて、津波のようで津波でない、なんでこうなったかよくわからない潮位変動だったそうである。噴火をきっかけに大気中を飛んだ衝撃波(空振)が引き起こしたという説が取り沙汰されている。これをちょっと考えてみたい。

土曜日の夜8時半から9時位にかけて、日本各地で急激な気圧変化を観測した。せいぜい1-2hPa程度の微小変動だったが、ふつうの気象ではあり得ないスパイク状の変化で、これがトンガの噴火がもたらした衝撃波の名残であった。噴火自体は日本時間の同日午後1時過ぎで、日本までの距離約8000キロを7-8時間かけて到達したことから平均して秒速300m前後の伝搬速度だったと推定される。対流圏中・上層の音速がだいたいこのくらいなので、理にかなっている。

さて、この波がどのように津波(のようで津波でない潮位変動)を誘引したのか?気圧が下がると海面は上昇するが、普通は1hPaの変動に対しせいぜい水位1cm程度の吸い上げ効果に過ぎない。だが、気圧変化の移動速度に海洋長波(海水全体の動きを伴う波)の伝搬速度が近くなると、共鳴を起こして振幅が増幅する(プラウドマン共鳴という)。海洋長波の伝搬速度は水深の平方根に比例し、空振の秒速300mに付いていくには計算上10,000m近い水深が必要だ。しかし太平洋の平均深度は4,000mくらいだから海洋長波はもっと遅く、追いつけない。それでも観測通りの潮位変化が説明できるのか、私には確かめるすべがない。いま気象や海洋研究者のSNSやMLを覗くと、そのあたりの議論で大いに盛り上がっている様子である。じきに誰かが解明してくれるだろう。

北南米の西海岸にも津波(のようで津波でない潮位変動)が到来し、ペルーでは犠牲者も出た。当然海外メディアでも注目を浴びているが、どこもふつうにTsunamiと呼んでいる。プラウドマン共鳴はふつう比較的浅い海域で気象擾乱が海洋長波を増幅するメカニズムとされ、これを気象津波(Meteo-tsunami)と呼ぶ。地震起源の津波と確かにメカニズムは違うが、回りくどい言い方をせず素直に津波と呼んでおいても別にいいんじゃなかろうか。

付記:気象津波については高野(2014)(PDF)の解説記事が勉強になった。この文献やトンガ噴火に関わるML動向について教えてくださったJAXAのK氏に感謝します。

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