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続・ちょっとした不測の事態 [その他]

jitaku_taiki_man.png海外滞在中にコロナ陽性になってしばらく帰れなくなった話は、今や珍しくない。現時点ではある程度の水際対策は必要だろうが、問題はその「ある程度」が適切に設定されているかどうか(およびそれが適切かどうかを柔軟に判断する国のメカニズムが機能しているか)ではないか。

日本政府は入国に際し陰性証明をとる検査法と検体の種類をかなり限定している。抗原定性検査(簡易キット)は認められていない。国内で無症状者の感染を判定するための推奨基準を援用しているようである。ただ、国内で陽性が判明し自己隔離するのと、国外で感染し帰国を拒否されるのでは、いろいろ訳が違う。

NAAT(PCR検査など)は高感度すぎて感染リスク消滅後も陽性が出続けることがあり、CDCのサイトにNAATの欠点としてこんな指摘がある。
A positive NAAT diagnostic test should not be repeated within 90 days, because people may continue to have detectable RNA after risk of transmission has passed
短期間にNAATを繰り返し使って陽性診断するなとはっきり書いてある。しかし現在の日本政府の水際対策では、帰国前に陽性判定が出てしまった人はこの「やるな」をやらないと帰れない(NAATのほかに抗原定「量」検査も認められているが、これが受けられる検査施設は圧倒的に少ない)。

結果として、症状が回復しているのに長期にわたり国外に足止めを食らうケースが続出しているようだ。回復後も陰性にならない場合は領事レターという特例措置が存在することを先日知ったが、NAATによるスクリーニングが入国条件に適切かというそもそも論は置き去りにされている感がある。NAATは検査費が高価で、1‐2日結果が待てるならまだしも、慌ただしい出張の中では短時間で結果が出るさらに高価な検査法(アメリカの場合$100は下らない)に頼らざるを得ない。陰性になるまでNAATを繰り返し受けさせられるのは、科学的にもコスト的にも非合理だ。抗原定性検査であれば、安価で繰り返し検査しやすい。もちろん感度は劣るが、明らかに感染している人は簡易キットでも陽性になるので、一定数の見逃しがあってもリスク低減には充分有効なはずだ。一定数の見逃しすら許容しない原理主義的なゼロリスク水際対策は、オミクロン時代にはそもそも無意味である。

困難に直面している自国民を国外に締め出すというのは、国家として異常である。もちろん感染症の特性を考えると「ある程度は」やむを得ないが、ゾンビを締め出すために逃げ遅れた家族もろとも鼻先でピシャリとドアを閉めるような冷酷な対策をいつまで続けるのだろうか。欧州も米国も、ワクチン接種済みを前提として入国前検査を既に廃止した。絶えず状況の変化を見ながら制度の異常性と水際対策の落としどころを探っていかなければならないはずが、そのあたりの知恵と意欲が日本政府には欠落してるように見える。

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