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一平さんの事件 その2 [スポーツ]

fashion_baseball_cap2_blue.png大谷翔平選手の会見が行われた。水原さんの違法賭博事件について、大谷選手は全く関知していないという「公式」版のストーリーを裏付ける証言に終始した。すなわち、水原さんが数か月から一年にわたり大谷選手の口座に無断アクセスを繰り返して大金をくすね、メディアの追及には(どう考えてもすぐにばれる)嘘を作り込んで語り、一方で大谷選手はつい先週までその異常に全く気付かなかった、ということである。もし水原さんが確信犯的な(しかし絶望的に詰めの甘い)詐欺師で、大谷選手が資金管理や身辺の異変にまるで無頓着な無類の野球バカであった、ということなら、(いろいろと残念だが)あり得ない話ではない。

だがどうにも腑に落ちないのは、大谷選手が真相を知ったのがドジャーズのチームミーティングの場だったという証言である。それに先立ち代理人が問題を把握していたことを、大谷選手自身が語っている。チームに対して話が明かされる前に、当事者である大谷選手に代理人から何の説明もなかったということがあり得るだろうか? チームミーティングで大谷選手が困惑したという話は既に報道で出ていて、彼が「知らなかった」ことを印象付ける演出めいた匂いを感じていた。大谷選手は水原さんがメディアの取材に応じたことを事前に聞いていなかったと会見で述べているので、彼がチームミーティングで知って驚いたのはそっちなのではないか、という憶測も成り立つ。

ところで、今回の騒動は大谷選手を巡る日米の温度差を図らずも浮き彫りにしたように思う。日本人の目に映る大谷選手は、野球の本場アメリカで頂点を競う国民的英雄である。日本のメディアはシーズン前から大谷選手の一挙手一投足に注目し、キャンプで勢い余ってトレーニング器具を引きちぎるだけでニュースになる。しかしアメリカ国内では、エンゼルスやドジャーズのコアなファンならともかく、大谷選手は数多いるメジャーリーガーの一人に過ぎない。野球にとりたてて関心のない多くの米国人は、名前は知っていても大谷選手に何ら特別の思い入れはない。

それはちょうど、日本人にとってのモンゴル人力士のようなものではないか。現役時代の朝青龍は、モンゴルの人たちには日本の国技に乗り込み横綱として君臨する英雄であった。だが、生粋の相撲ファンを別にすれば、日本人の大半にとって朝青龍は「ああ、あの力士ね」くらいの存在に過ぎなかったはずだ。いろいろとやんちゃな素行に事欠かなかったので、どちらかというとネガティブな印象を持つ人も多かったかもしれない。もしモンゴル力士が日本の角界で話題をさらうことを密かに快く思わない人がいたとすれば、同じことは大谷選手がアメリカでどう受容されるかについても言えるのである。

その意味で、水原さんの事件により大谷選手はかなり微妙な状況に追い込まれている。もし彼が水原さんの窮状を見かねて借金を肩代わりしたのが真相だったとしても、それが感涙の友情エピソードとして処理されるほど米国人は大谷選手に愛着はない。大谷選手の代理人はそこに美談を見なかったからこそ、大谷選手を水原事件から完全に切り離す作戦に打って出たのだと思っていた。大谷会見後の今も、その印象は払拭できていない。

或いは、大谷選手側の主張どおり一から十まで水原さんが水面下で仕組んだ犯行だったのかもしれない。だがいずれにせよ、質疑なし12分の会見が大谷選手の名誉回復にどれだけ寄与したか、その効果はあまり見えない。大谷選手に非がある話ではないのに、誠意に欠けるような印象を与えかねない対応戦略は大丈夫なのか、とか他人事ながらいろいろ心配している。

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