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COVID-19自由研究 [科学・技術]

science_shikenkan.png相変わらず、至るところ新型コロナの話題で持ちきりである。情報過多でノイズも多いので、メモ代わりに一度自分なりに整理してみることにした。もちろん医学や疫学の専門家ではないので、理解が正しい保証はない。素人の自由研究に過ぎないが、誰もが素人なりにいろいろ考えておくことが不確かな情報に振り回されないコツだと思う。信頼できる一次文献として、主にWHOと中国の合同調査報告書(PDF)を参考にした。

予防マスク:WHOの一般向け質疑応答コーナーは、症状(とくに咳)がある本人及びその看護人だけがマスクを着用すること、と念を押している。それ以外の人が予防目的でマスクを着用するのは貴重資源の無駄遣いである、とまで書かれている。国内でも専門家筋の見解は概ね同様だが、飛沫を吸い込むリスクは減るので一定の予防効果あり、という意見もある。マスクが無尽蔵に供給されればそれでいいかも知れないが、とくに日本は花粉症のシーズンと重なっており、ただでさえマスクの需要が高い。朝イチの薬局前に日々行列ができる品薄の状況では、予防マスクを奨励する正当性は弱い。政府がマスクを一括購入し重点配布するキャンペーンを始めたが、真に必要な人の優先順位を考えずバラまくのでは意味がない。

感染力:WHO報告書では、新型コロナは伝染力が強く拡散が早いと明記されている。感染力の指標である基本再生産数R0(一人の患者が二次感染させる人数の目安)は、報告書によれば2から2.5という「比較的高い」数値とされる(もう少し高い値を出している研究もある)。季節性インフルエンザのR0が2から3とされるので、同程度である。空気感染する麻疹などに比べれば感染力はずっと弱く、基本的に飛沫感染のウィルスなので手洗い消毒や1m以内(日本では2mとよく言われる)の接触を避けるといったインフルエンザと同様の予防法が有効である。ただし私たちがまだ免疫を持たない新型ウィルスだという点で、ワクチンが普及しているインフルエンザより注意が必要だ。

毒性:中国国内のデータを分析した2月20日時点の統計値によると、80%前後の患者が軽症ないし中程度の発症、残り2割近くが重症ないし重体であり、調査時点の暫定的な統計値として致死率は全体で3.8%、80歳以上に限れば致死率21.9%とある。只事でない数字だが、いずれも武漢を含めた中国全体の値であり、武漢を除いた統計では致死率は3.8%から0.7%まで下がる。同様に、重症者の割合も高齢者の致死率も、武漢以外では上の数値よりかなり低いものと推定される。目立つ数値は耳目を引きやすくメディアでもたびたび引用されるが、説明が足りないと数字が独り歩きする。

無症状感染者:WHO報告書によれば、無症状の感染者は稀で、一時無症状でも大抵は後に発症していた、とされる。非常に発症しやすいウィルスなのか、または一切発症しない感染者はそもそもデータに上がってこないのか、定かでない。WHOは前者の立場から、無症状患者が感染拡大に寄与する可能性には否定的である。いっぽう国内で、若者を中心に無症状患者が関与する感染拡大を問題視する情報発信があった。WHOと疫学的見解が分かれるようである。仮に無症状の感染者がWHO調査で見逃されていたいたとしたら、感染者の母数はもっと多いはずなので実際の重症化率や致死率は上述の統計よりさらに低いことになる。

医療崩壊?:ネット上で垣間見た武漢市の惨状が、新型コロナに対する恐怖心の背景にあるものと思われる。同じようなことが日本で起こりうるだろうか?インフルエンザを例にとれば、昨シーズンは罹患者が年間累計1000万人を超え3000人以上の死者も出たが、日本の医療は何事もなく機能していた。クルーズ船含め感染者が全国で現在約1000人、R0=2-2.5で致死率0.7%程度の新型コロナが、直ちに日本の医療インフラを麻痺させるとは考えにくい。未知の感染症に対応できる医療機関は確かに限られているが、新型コロナはだいぶ素性が割れてきており、毒性の強いSARSやらに比べれば大したワルではない。武漢市内は1月当初は致死率が20%を超えていたが、その後急激に減少し2月中旬には中国の他地域と変わらない低水準に落ち着いた(WHO報告書の図4)。ウィルスの毒性そのものがそれほど急に変化するとは思えないから、現地の医療事情の回復が状況を劇的に改善したようである。日本では感染拡大率を抑え医療のキャパシティを圧迫させないのがもっかの基本方針で、それは良いのだが、リスクの不確実性を誇張すると人々が不安に駆られて病院に押し寄せ、それこそ武漢の二の舞となる恐れがある。

一斉休校:交通事故を避ける最善策は、どこにも出かけないことである。論理は正しいが、本末転倒だ。同じように、全国民が家に引きこもれば感染は止まるが、社会機能も完全に止まる。完全封鎖か放任か両極端の間どこかに妥協点を見つけねばならず、単純な正解はない。落とし所の見極めは純粋に政治判断であり、現政権は長期休校の要請という選択肢を取った。WHO報告書によれば、子供(18歳以下)の罹患率は低く、全世代の感染者に占める割合は2.4%にとどまる。やや微妙な言い回しながら、聞き取り調査では子供から大人に感染した事例は確認されていないとあり、前代未聞の大規模休校の有効性を裏付けるデータはとくにない。そもそも、休校要請は国が自ら出した基本方針とすら温度差がある。基本方針は首相が音頭を取る間もなくたちまち社会に浸透したので、皮肉なことに政治判断の特色を売り込む余地がなくなった。穿った見方をすれば、首相のリーダーシップを印象づけるには、基本方針とは別路線へ突っ走る他なかったということか。つい先日は「なぜ今?」感の否めない入国制限措置(2週間待機ルール)を発表し、独自色がさらにパワーアップし異次元を飛行している感がある。

副産物:新型コロナへの懸念が高まって以来、季節性インフルエンザの患者数が頭うちになり、例年にない低止まりで推移している。手洗い消毒の徹底がインフル対策としても見事に功を奏したらしい。やればできるじゃないか、と誰もが思ったのではないか。あちこちの企業でテレワークが導入されつつあり、図らずも壮大な社会実験が進行しているかのようでもある。日本人は真面目なので在宅勤務を決心するのも勇気が要るが、欧米の仕事仲間には毎週1日在宅ワークだったり、それどころか在宅が基本で不定期に出勤する人も珍しくない。職種によって事情はそれぞれだが、テレワークも「やればできるじゃないか」と新たなライフスタイルの発見につながるかもしれない。

まとめ:新型コロナがさほど危険なウィルスとは思えないが、高齢者を中心に亡くなる方もおられるので、とりわけ集団免疫の効果が期待できない現段階では身近な予防策(手洗いなど)をこまめに行うに越したことはない。一方、トイレットペーパー騒動などデマに誘引される突発事象が起こり、メディアや政府はややもするとエビデンスの希薄な脅威を煽りがちだ。一番手に負えないのは、社会がパニックになって暴走することである。得体の知れないものへの恐怖はどんなウィルスよりも早く伝染し、際限なく増幅し、有効な免疫もない。人類にとって最も危険な伝染病の源は、私たちの心のなかにいる。

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