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番外編:科学はクッキー缶か? [政治・経済]

国が専門家会議を廃止し、都は東京アラートをお蔵入りにした。政治にとって科学は何か、その本音と建前の乖離が表面化した例として面白い。

sweets_cookie.png専門家が提言していない一斉休校を首相が突然ぶち上げた3月初頭の時点で、既にどこか噛み合っていなかった。総理にとって専門家の提言とはたぶんクッキーの詰め合わせのようなもので、美味しそうなところをつまみ食いすればよいと思っていたのではないか。東京アラートが参考にした新規感染者数とか経路不明の割合とか、見るべきデータ自体は間違っていなかったのだと思うが、20人とか50%とかいった数値基準が恣意的で裏付けが弱過ぎた。データは客観的でも閾値が主観的では何の意味もない。政治判断の足枷になる基準を自ら課してしまったことに後から気付き、数値に縛られるのは面倒くさいのでもうやめます、では結局東京アラートとは何だったのか。

今に始まったことではないが、政界にも謙虚に科学の知見を学びたいという人がいる一方で、科学を政策にお墨付きを与える鑑定書のように考えておられる政治家もいる。後者の場合、往々にしてお気に召さない鑑定は見なかったことにされる。専門家会議が太鼓判を押すクッキーは苦くて総理の口にあまり合わなかったようだし、鳴り物入りで始まった東京アラートは都知事自ら早々に反故にしてしまった。国も都も新体制で専門家の意見を聞くスタンスが消えて無くなったわけではないから、確信犯的に科学を軽視しているわけではない。要は、科学の活用の仕方を為政者が未だに測りかねているのではないかと思う。

科学とは出来合いの知識体系ではなくて、限られた手掛かりをもとに点と点をつないで全体像を描き出す思考力のことである。新型コロナは未解明の点が多いから、自分の頭でよく考えていないと容易にあやふやな情報の海に溺れる。安倍首相は会見で答えづらい質問をしれっと尾身副座長に振っていたが、もし首相が一貫して自身の言葉で質疑に応じていたら、与える印象はだいぶ違ったのではないか。メルケル首相のように科学者出身でなくとも、一国の長ならサイエンスの基礎を咀嚼する知性は備えているはずだ(残念ながら例外も数人思い浮かぶが)。最後は政治判断なのでクッキーを完食する必要はないのだが、苦くても食わず嫌いせず栄養価まできちんと熟知した上で食レポしてみてはどうだろう。

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