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コロナ禍の七夕 [社会]

コロナ感染者数が再び急上昇しているが、数ヶ月前に比べると明らかに世間の風向きが変わった。PCR検査数が増えた、若年層が多くて無症状や軽症率が高い、医療機関のキャパにまだ余裕がある、といった「安心材料」が強調される。国や自治体はもちろん、少し前まで眉間にシワを寄せて感染爆発の危機を憂いていた専門家やコメンテータが、こぞって人が変わったように涼し気な気配だ。もっともコロナ対応の医療現場に近い専門家だけは、世間と温度差がある。

4月頃の状況と色々事情が違うのは事実としても、冷静な現状分析の上でそう言っているというより、もう自粛しなくて良いと公言する方が今はウケがいい、という場の空気に乗っかっている人も多い気がする。だから、風向きが変わった、と形容するのがぴったりくる。西村大臣が「もう誰も緊急事態宣言とかやりたくないでしょ」と言い放った会見など、その際たる例だ。自発的な引き締めを呼びかける文脈で言った言葉ではあるが、自粛疲れも限界だからちょっとやそっとでは緊急事態宣言は出しません、と匙を投げたように聞こえなくもない。

sasanoha_bg.pngところで今週は七夕であった。働き者だったはずの織姫と彦星が、結婚した途端に嬉しさのあまり緩んでしまい、織姫のパパである天の神様が緊急事態を宣言した。引き離され自粛生活を余儀なくされた二人のメンタルはかえって仕事どころではなくなり、天界の経済が回らなくなる。そんな状態を見かねた神様は、7月7日だけはソーシャル・ディスタンシングを解禁することにした。コロナ禍の時節柄、織姫と彦星の物語が心に刺さる人も多いのではないか。いま私たちを悩ませる新しい日常を、織姫と彦星は銀河系(天の川)の誕生以来ずっと耐え忍んできたわけである。

七夕の神様はやり過ぎではないかと、ずっと思っていた。いくら若い2人が職場放棄したとは言え、再会まで丸一年指折り待ち続けた挙げ句、不可抗力の雨天に見舞われれば容赦なくもう1年先延ばしにされるのはあまりに理不尽である。しかし、七夕の寓話が感染症拡大下で生きる不条理のメタファーだと考えれば、ちゃんと腑に落ちる。人と接すれば接するほど逆に会えないリスクを高めてしまう矛盾が、感染症の厄介なところだ。誰が悪いわけでもないのに人と人が距離を置くことが求められ、逆らえば第二波という天罰が待っている。織姫と彦星は、仕事を放ったらかしたせいで罰を受けたのではなくて、いつも一緒にいたいという当たり前の想いが彼らの「罪」だったのである。会いたいが故に引き離された七夕の悲話は、私たちの置かれた実情そのままで身につまされる。

今年の七夕は各地で浸水被害を出した梅雨前線の勢力下にあり、彦星と織姫にとっても気の毒なことであった。七夕の日に小耳に挟んだとある親子の会話が、なかなか冴えている。
母「七夕なのに、織姫さんと彦星さん会えなくてかわいそうね。」
子「え、何で?コロナだから?」
最近の子供は七夕さまの話も知らんのか、と嘆息するなかれ。まさかのリアクションながら、これはこれで結構本質を射抜いているのである。

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