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紅白明暗 [音楽]

audience_penlight.png紅白歌合戦をじっくり見なくなって久しい。1960年代や70年代は視聴率60%から70%は下回らない鉄板の人気番組だったが、80年代後半に数字が急落して以降年々じりじりと下がり続け、近年は40%を切ることも多い。それでも、デビュー後間もないミュージシャンにとって紅白出場の機会を得る栄誉とは、新人作家が芥川賞をとるような特別の輝きを未だに放っているらしい。今年も紅白出場歌手が発表された直後は、当落を巡りひとしきり巷がざわついたようである。

AKBの落選ほど話題になっていないが、ともに昨年初出場だった髭男とKing Gnuが明暗を分けたことが、ファンの間で論議を呼んだようである。いずれも男性4人のグループで世代が近く、流行りはじめた時期もかぶっているのでよく比較される。でも、音楽的には似ても似つかないバンドである。髭男の爽やかで真っ直ぐな音楽はとても心地よいが、40代後半のひねくれたオッサンには眩しすぎて少々こそばゆい。King Gnuの曲に通底する屈折したほの暗さが、むしろ心に馴染む。『三文小説』などサビの旋律だけ取り出せばバッハのフーガにでも馴染みそうなくらいクラシカルだが、端正で美しいメロディーを暗く爆発的な情念に乗せるセンスと熱量にしびれる。『白日』を超える名曲だと思うが、どのみち紅白の浮かれたムードには馴染まないかも知れない。

紅白人気が衰退の一途を辿る背後には、世相の変化がもたらす不可避の要素は確かにあるだろう。家族団欒の場ですら親子それぞれスマホの画面にチラチラ目を落としかねない時代だから、大晦日の晩にテレビ以外の娯楽がなかった頃と同じ視聴率が期待できるはずもない。だが紅白人気の翳りは、スマホはもちろんガラケーもなかったバブル初期に既に顕著だった。視聴率低下の原因か結果かはわからないが、紅白製作側の意気込みが空回りするイタい企画が目立つようになる。ひところ小林幸子の華美な衣装が話題になると、何を思ったか白組には美川憲一を立て、毎年奇怪な衣装合戦を仕組んでいた。年々エスカレートして引くに引けなくなった挙句に衣装が舞台装置の一部と化してしまい、電飾の狭間に閉じ込められ身動きの取れない歌手が気の毒だった。『シン・ゴジラ』が話題を呼んだ2016年の紅白では、ゴジラを題材に大掛かりな演出を仕込んで大々的にすべった珍事件がなかったか?いつからか紅白といえば、見ている方が気恥ずかしくなる残念な企画の宝庫になってしまった。

ある頃から、NHKはお堅いイメージを払拭する自己改革を始めた気配がある。『LIFE!』のようにイメチェンが上手く実った番組もあるが、紅白は「軟派もいけるNHK」作戦がいつも裏目に出ている。間延びするつなぎコンテンツは程々にして、その一年を代表するヒット曲と万人受けしないけど内容の濃い曲を組み合わせて、もう少し音楽中心の構成で攻めてもいいんじゃないか。お金のかかったMステみたいな番組なるかも知れないが、誰に何を伝えたいのかよく分からない最近の紅白よりは、見応えがあるんじゃなかろうか。視聴率が30%代まで低下したとは言え、一般の番組がこの数字を取れれば驚異的と言える水準ではある。何だかんだ大晦日の晩に何となく紅白を流している家庭は今でも多いと思われるので、下手に媚を売ったりせず骨のある音楽番組を期待したい。

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