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プロはアマのために、アマはプロのために [音楽]

正月番組の金字塔『芸能人格付けチェック』で、吹奏楽のプロとアマチュアを聴き分ける企画がある。suisougaku.png今年のアマチュア代表で出演した都立片倉高校吹奏楽部の上手さに仰天したが(私は彼らの方がプロかと思った)、昔から吹奏楽コンクールの強豪校は恐ろしくレベルが高い。吹奏楽はオーケストラと比べ個人技に頼るソロ要素が薄く、アンサンブルの精度を極めれば普通科の中高生でもプロとほぼ互角の技術水準まで迫れるということかも知れない。スウェアリンジェン作曲『インヴィクタ』という吹奏楽曲があって、技術的に平易で初心者でも乗れるわりにカッコよく映えるオイシイ名曲として、ブラスバンド経験者ならたぶん一度は演っただろう。

もちろんアマチュアの大半はプロの足元にも及ばないと思うが、コンクールの上位常連者となるといくらか話は違う。コンクールで審査する側は専門家なので、アマチュアと言えどプロの耳を唸らせるレベルを徹底的に追求する。一方、プロの音楽家はチケット代を払って聴きに来るファンを満足させることが仕事で、コンクールとは着地点が違う。トップクラスのアマはプロに評価されるため、プロはアマチュアの心をつかむため、それぞれ音楽に磨きをかけるのであって、極論を言えば弾き手と聴き手はプロ・アマ逆転しているのだ。『格付けチェック』のように一曲の一部分だけを切り取って比べたとき、そのどこにアマチュアらしさやプロらしさが滲み出るのか、考え出すと一筋縄ではいかない問題である。

フィギュアスケート界はさらに特殊で、私たちが名前を知っている花形スケーターはほとんどトップクラスの「アマチュア」だ。グランプリシリーズとか競技大会に出場する選手は(参加規定上)みなアマチュアで、フィギュアのプロとはアイスショーなどで活躍するスケーターである。競技人生を終えたアマチュア選手がプロに転向することも多いが、今の羽生結弦より技術力の高いプロのスケーターは、たぶん世界に一人もいないだろう。プロのレベルが低いということではもちろんなくて、滑る目的が違うのである。アマチュアはプロの目にしかわからない回転数のジャンプにしのぎを削り、プロはエンタテイメントの世界でギャラリーを魅了する。その意味では、吹奏楽と似ている。

大学は学位審査のシーズンが始まっている。今年度末に修士を修了する学生たちは、修士論文を仕上げつつプレゼンのリハーサルを何度もやって発表会に備える。研究の完成度や理解度はさておき、プレゼンは各研究室で相当に鍛えられているなあと感心することが多い。これが学界における「プロに審査されるアマチュア」が見せる本気度なのかなと思う。自分が学会前にここまでプレゼンを磨き上げていたかと振り返ると、反省も多い。

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