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ぴよりん [その他]

藤井聡太君が王位防衛を賭けて豊島竜王と望んだ初戦、結果は破れたが、勝負と関係のないところで話題が沸騰した。藤井王位がおやつに注文した「ぴよりんアイス」である。そのあまりに愛くるしいルックスに、ぴよりんとはいったい何者かと巷がざわついている。

piyorin.png名古屋圏にお住まいなら、既にお馴染みの人も多いだろう。ぴよりんはJR東海傘下のメーカーが2011年に産み出した、名古屋銘菓の新しい顔である。プリンをババロアで包んだふわふわの身体に、粉状のスポンジをまとった羽毛感、チョコであしらったつぶらな瞳とシンプルなパーツ(右写真は公式サイトより)。ぴよりんが買える店は名古屋駅構内の二軒だけで、その一つが新幹線の改札を降りたそばにある。発売開始後まもないある日、出張帰りにショーウィンドウにずらりと並ぶコイツを発見したときは、ちょっとびっくりした(もちろん買って帰った)。

一羽ずつ手作りなのでむやみに量産できず、その後人気がじわりと広がると、出張帰りの時間帯では本日完売で出会えない日も多くなった。とくに、あまおうぴよりんなど季節限定モノは、すぐいなくなる。生誕10年を記念して各種企画が進行中で、そのひとつが名古屋マリオット・アソシアとのコラボ作品、ぴよりんアイスである。7月1日からマリオットのラウンジで提供が始まったばかりとのことだが、先行して藤井君を巻き込み宣伝を打った企てが、見事に当たったようである。

もともと、名古屋は全国的に知られた地元銘菓が少ない。青柳ういろうは定番と思うが、他にメジャーなブランドはあまり思い至らない。きよめ餅やなごやんなど隠れたロングセラーもあるが、他府県の方はおそらくご存知なかろう(どちらもふつうに美味しいのだが)。味噌カツとか天むすとか昭和なインパクト満載の名古屋飯が有名なだけに、スイーツで人気を取りづらいのかもしれない。その空白地帯に彗星のように現れたのが、ぴよりんである。しかし生モノなので日持ちがしないのと、長距離の持ち運びが難しいこともあり、なかなか全国規模で知名度を伸ばせなかった。

なぜ持ち帰りが大変かというと、プリンにババロアという「虚弱体質」のせいで、かなり崩れやすいのである。ひと頃「ぴよりんチャレンジ」というハッシュタグが流行り、チャレンジ失敗で変わり果てた箱の中のぴよりん画像がSNSを飛び交った。ググれば山ほど出てくるが、変形や転倒など序の口で、バラバラ殺人に見舞われたようなぴよりんの残念な有り様に思わず合掌したくなる写真も少なくない。通販などむろん問題外だ(その都度ぴよりんチャレンジを突きつけられる配送業者はたまったものではない)。

ぴよりん誕生以前、おなじJR東海フードサービスが作ったシャチボンという鯱鉾型シュークリームが売られていた。シャチボンもかなり手の込んだゆるキャラ・スイーツだったが、おそらく名古屋以外で知る人は少ない。シャチボンが果たせなかった全国区の人気をぴよりんが勝ち取ったのは、藤井君のおかげでもあるが、ここ10年で急成長したSNSの威力が大きい。とは言え、お取り寄せのきかないぴよりんに出会うには、名古屋駅まで足を伸ばす他ない。情報拡散の早いご時世だからこそ、手が届きそうで届かないリアルにかえって萌える。ネットの情報インフラを最大限に活用しながらご当地でしか手に入らない限定アイテム、これが今後の地域振興を牽引する戦略の一つになるのではないか。

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