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第5波は結局何だったのか [科学・技術]

感染者数・重症者数の国内最悪記録を更新した第5波が、すっかり落ち着いた。新規感染者数が減少に転じた8月後半ごろは、ピークアウトしたのは事の重大さにビビった人々が行動変容したせいか、と(データ上は根拠のない)俗説が囁かれていた。9月になって学期が始まればまた増える、とか各種悲観論が世を席巻していたが、9月が終わっても結局リバウンドは来なかった。晴れて緊急事態宣言が解除されたのは良いが、感染が落ち着いた理由がよく分からない以上、いつ再発するかも予測できない。そんな不確かな将来に不安を覚える人たちは、第6波とかインフルエンザ同時流行とか、懸念材料を語り続けている方が却って安心するようである。

ウイルスの自壊ということを言う人がいる。エラー・カタストロフという数学理論が元にあって、変異による複製の失敗率が自然淘汰の遺伝的優位性を上回ってしまう場合に種が途絶えるというモデルのようである。ただこの理屈は、今のコロナウイルスの状況を説明するには適していない。いったん蔓延したウイルスが一気に自滅するには、テレパシーで申し合わせたかのように一斉に複製ミスを犯さないといけない(強いウイルスが一定数生き残る限りそこからまた急速に増える)ことになるが、もちろんそんなことは起こりそうもない。

medical_koutai_man.pngワクチンの普及が感染拡大の鈍化に効いていることは、間違いなさそうである。接種率で先行するイスラエルやイギリスなどは今でも感染者が増えたり減ったりを繰り返しているが、日本が明らかに違うのはワクチンを終えた人も含めて大多数がマスク着用を続けていることだ。そこまで律儀じゃなくてもいいんじゃないかと以前は思っていたが、抗体の減少やブレークスルー感染の話もあるのでまだしばらくは様子見である。接種率の数字そのものは集団免疫には遠いが、マスク効果とのあわせ技で実効再生産数が1を切ったということなのか?

もしワクチン+マスクがそれほど有効なら、そもそも強烈な第5波にやられた理由は何だったのかという疑問が残る。東京都モニタリング会議の分析によれば(9月16日付「東京大会について」PDF)、東京の実効再生産数のピークはオリンピック開会前日の7月22日だったそうである。東京都はこれを根拠にオリパラは安全安心だっと言いたいようだ。ただしオリンピックに関わる海外の請負業者や外国メディアの入国者数は、五輪開催中よりも準備が佳境の開会前に多かったはずで、実効再生産数が増加していたタイミングとむしろピタリと符合する。五輪関係の入国者は、アスリートよりも観客の目に触れないスタッフのほうがずっと多かったことは、改めて指摘するまでもない。

あまり大々的に報道されていないが、英米から来た五輪設営業者4人が酔って警察沙汰になった挙げ句、コカイン使用疑惑で逮捕される珍事件があった。これが報道されたのが7月13日、開会式の10日前である。そこで、こんな仮説はどうだろう。開会に先立ち各種五輪関係者の流入が増え、マスク嫌いな文化圏の人たちの一部が夜の東京で羽根を伸ばしていた。たまたまその周囲にいた日本人が巻き添えでウイルスを持ち帰り、ステイホーム観戦が家庭内感染の温床になった(観戦と感染が同じカンセンでややこしい)。五輪関係者が帰国し国内の熱気が引く時期を見計らったように第5波が引いていった事実とも矛盾しない。別に本気でそう信じているわけではないし、仮説を裏付ける証拠もないが、他に第5波の動きをトータルに説明できる理論もまた存在しない。

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