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ネアカな科学者 [科学・技術]

job_kagakusya.png小松左京の『日本沈没』を今日的に再構成したドラマが始まっている。硬派な社会派ドラマを指向した制作側の意気込みがひしひしと伝わる力作だが、個人的には「科学者」の描き方が見事なステレオタイプにハマっているところが面白い。日本のドラマや映画に登場する科学者には、いくつか定形がある。ひとつは学界の頂点に君臨する有名大学の教授。そして、その権力者に反旗を翻し学界から去る(または排除される)異能のサイエンティスト。『日本沈没』では、前者に國村隼さん、後者に香川照之さんと濃いめの性格俳優を対峙させ、二人の確執が一触即発の火花を散らしている。同じようなドラマが大学病院で展開されると『白い巨塔』になり、それが刑事モノだと教授が教え子から怨恨を買って殺される。科学者の世界とは厳格な階級社会に支配された異常者の世界だと世間には思われているんだろうか。

研究コミュニティーの雰囲気は専門分野が違えば千差万別で、ひとくくりには出来ない。分野によって師弟関係や講座制の縛りが強い噂は聞くが、私は幸い上下関係とも権謀術数とも無縁の世界に暮らしている(貶められても気づいていないだけかも知れないが)。少なくとも『日本沈没』の田所博士のように始終テンパっているマッド・サイエンティスト風の人は、私の周囲では見かけない。香川照之さんは『半沢直樹』の時すら役作りに緩急があった気がするが、今回は端からテンション上がりっぱなしで最後まで体力がもつのか、余計なお世話ながら少し心配している。

時として、学者は俗事と関わりのない孤高の変わり者として描かれる。『男はつらいよ』の諏訪博(寅さんの義弟)の父は元大学教授で、映画第一作で息子の博から拒絶される偏屈老人として登場する。学問だけが彼の全てで、権力にも出世にも興味はなさそうだ。『男はつらいよ』シリーズではあと2回ほど登場機会があり、寅さんとはあらゆる意味で対極のキャラクターなのだが、この二人は何故か意気投合する。偏屈な学者という点では、『ガリレオ』の湯川学もこの系列に連なる。ただ福山雅治さんはルックスの水準が高すぎて、同業者としてのリアリティをあまり感じない。

これらのステレオタイプに共通することは、学者は何となく「ネクラな」人たちとして描かれがちなことだ。確かに人によっては研究バカで世事に疎いかも知れないし、理系オタクで人付き合いは無粋かも知れない。でも、研究者は基本的に好きなことを職業に選んだ人種であって、好奇心いっぱいの子供がそのまま大人になったような人も少なくない。ノーベル賞の真鍋淑郎さんだって、齢90にして何だかとても楽しそうではないか。日本沈没はテーマが重いので仕方ないとして、次に科学者が登場するドラマを制作する人たちは、もう少し研究者の天真爛漫な日常を描いてくれないかなと思う。