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追悼エリザベス女王 [海外文化]

king_oukan.png大学生の頃、当時留学していた友人を訪ねてイギリスを旅行した。ロンドンでは自然史博物館にハマり、ストーンヘンジに行く途中に泊まったソールズベリーでは街の教会で誰かが練習していたパイプオルガンの荘厳さに圧倒された。ソールズベリーで宿泊したB&Bで、部屋のいたるところに王室の肖像写真が掲げられていたのを覚えている。日本の民宿で皇室関連の写真が並んでいるのを見たことはないので、英国初体験の若造にとっては新鮮な驚きだった。

その後イギリスには仕事で何度か訪れている。6年前の出張の際、帰国日に時間が空きバッキンガム宮殿まで散歩したことがある。すると宮殿前の広場が見物人でごった返している。何が行われているのか首を伸ばしてみたが、何も見当たらない。そばにいたどこかの国のツアーガイドに何事かと聞いてみたが、よくわからないが何かが起こるらしい、というまるで要を得ない返答が返ってきた。しばらく待っていると、やがて礼装に身を包んだ騎馬隊と歩兵隊の連隊が現れ、恭しく引かれた空の馬車が宮殿に吸い込まれていった。後から知ったがその一週間ほど後に宮殿でエリザベス女王90歳の祝賀行事が開かれたので、おそらくそのリハーサルの一部だったのではないかと思う。

ダイアナ妃事故死直後の英国王室をフィクションで描いた『クィーン』という映画があった。元皇太子妃の悲劇に冷ややかなエリザベス女王に世間の批判が集まり、王室廃止論まで飛び出した頃の話だ。映画の中で、宮殿前に追悼に集まる群衆の前に現れる女王のシーンがある。刺々しい視線に満ちた微妙な空気に戸惑うエリザベス女王に、一人の少女が小さな花束を差し出して言う。
「これはあなたのために、女王様。」
王室の伝統を守りつつ家族の一員であり一人の人間であった女王の苦悩と孤独は、いかばかりだったか。七十年という長大な在位期間を全うしたエリザベス女王の献身に改めて深い敬意を覚える。

女王は死去の二日前、トラス新首相任命の際にカメラの前に姿を見せた。もし任命前に亡くなっていたらいろいろややこしかったのではと思うと、これだけは自身最期の公務として果たさなければという強いご意志だったのか。人生の引き際まで気高く責任感に満ちた方だったのだと思う。

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