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第8波の先 [政治・経済]

コロナ新規感染者数がじわじわと増加し、第8波がどうのと盛んに言われるようになった。感染再拡大が始まった(全国の実効再生産数が1を超え始めた)のは10月半ばだ。忘年会とも送別会とも関係のないこの時期に何が起こったかと振り返ってみれば、季節の変化で換気をしづらくなった要因もあるかもしれないが、一つピタリと符合する出来事は10月11日に始動した全国旅行支援である。人が動けば感染リスクが高まるのは当たり前で、わざわざ第8波に油を注いでいるに等しい。ただデルタ株以前とは状況が違うので、感染拡大を承知で旅行業界を支援するのが政府の覚悟なら、ハッキリそう言えば良い。

bed_making.pngここ数か月、国内外の出張先で気付いたことの一つは、連泊の際に客室清掃を毎日やってくれなくなったホテルが少なからずあることだ。ホテル側の言い分は、従業員の感染防止(10月に泊まった米国の某ホテルの例)だったり環境への配慮(先週泊まった東京の某ホテルの例)だったりいろいろだが、本音はスタッフの人手不足でハウスキーピングが回らないせいではないかと推察する。人員整理でコロナ禍を切り抜けたホテルが、急回復する需要に見合うだけの増員を確保できない。古巣に戻って来ないかつての従業員たちは、今どうしているのだろう。インフレが進む米国では雇用は売り手市場となり、より給料の高い職に労働力が流出しているのかもしれない。が、ちっとも給与の上がらない日本はたぶん事情が違う。

日本の場合、パンデミック以前からホテル業界の人手不足は始まっていたようである。観光庁が外国人観光客の誘致に力を入れ、東京オリンピックを睨んでインバウンドの急伸が見込まれていた。そこにコロナがやって来ていったん冷や水を浴びたが、脱コロナに向けて国内の旅行需要が回復すると同時に、長い「鎖国」が明けて海外からの来訪者がどんどん戻りつつある。必要な労働力が都合よく湧いて出るわけはないので、急激に伸びる観光需要に供給が追い付かず、もともとホテル業界が抱えていた構造的な問題が改めて表面化したものと思われる。

水際対策の緩和により、パンデミックで入国できなかった海外の出稼ぎ労働者も戻りやすくなる。しかし、昨今の円安が海外の人々にとって日本で働くメリットを薄めている。第8波後の経済回復まで睨むなら、国内の人手不足を補うため海外からやって来る働き手を積極的に確保しなければ、社会のあちこちが回らなくなるのではないか。円安のリスクは物価高に注意が集まりやすいが、中長期的な悪影響はもっと根が深い。法務大臣の失言に右往左往する以外に、政府がまずやるべきことはたくさんあるんじゃなかろうか。

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