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消える消しゴム [語学]

タイのドンキで売られていた「よく消える消しゴム」の英訳が振るっている、というSNSの投稿に笑った。
Eraser that disappears often.
いや「よく消える」ってそういうことじゃなくて、と突っ込みつつ、確かに訳としてはちゃんと成立している。地元スタッフが自動翻訳に放り込んだらこれが出て来たのかもしれない。

bunbougu_keshigomu.pngそこでふと疑問に思ったのだが、「よく消える消しゴム」という日本語はそもそも文法的に正しいのだろうか。似た語句に「よく切れるハサミ」や「よく書けるペン」などがある。ならば本来は「よく消せる消しゴム」と言うのが正しいのではないか?消える消しゴムと言うと失踪癖のニュアンスを払拭できないが、消せると言えばその誤解は排除できそうである。

しかし考えてみると、「切れる」「書ける」「消せる」はいずれも「切る」「書く」「消す」という動作を伴う他動詞から派生している。他方、「消える」は動作の主体が不在の自動詞である。「字を消せる」のか「字が消える」のか、消しゴムの見方次第で言い方が変わる。「切る」や「書く」は対応する自動詞が存在しないので、このような言い換えができない。ハサミやペンにはない、消しゴムの特権だ。

「消える」と似た例として、見るという動詞は「物を見る」と「物が見える」の二通りの言い方ができる。「よく見える眼鏡」は「よく消える消しゴム」と同じ語感だ。ただし切れるハサミや書けるペンのように「よく見れる(見られる)眼鏡」という他動詞型の表現は、なぜか眼鏡には馴染まない。消せると消えるのいずれの用法も可能な二刀流が成立するのは、思いつく限り消しゴムだけだ。消しゴムは日用品界の大谷翔平なのである。

あれこれ書いているうちに何か文法的な結論が出るかと思ったのだが、むしろ落としどころがわからなくなった。日本語は奥が深い。

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