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番外編:パンダの話 [動物]

animal_panda_back.png上野動物園に新しいパンダ舎「パンダのもり」が完成したらしい。リーリーとシンシン(今やすっかり大きくなったシャンシャンの両親)がお住まいになるそうである。その陰でほとんど報道されていないが、パンダのもりの一角にレッサーパンダのコーナーがある。レッサーパンダはその名の通り「小さい方のパンダ」だ。英語ではred pandaの名称でも通っている。

どちらのパンダも、笹を主食に生きている。しかしもともと肉食動物の仲間なので、前足がものを握るのに適した構造にできていない。そこで、レッサーパンダにもジャイアントパンダにも前足に6本目の指(正確には指ではなく親指側の種子骨が変化したもの)がある。そのおかげで、器用に笹枝をつかんでむしゃむしゃと食らうことができる。

笹食と前足の共通点ゆえ、当初レッサーパンダとジャイアントパンダと近縁とされたようだが、今ではこの説は否定されている。レッサーパンダはレッサーパンダ科(アライグマに近い)、ジャイアントパンダはクマ科である。鳥と蝙蝠が独立に翼を進化させたように、レッサーパンダとジャイアントパンダの第6指は遺伝的には関係ない収斂進化の一例だ。そもそも、パンダとは本来レッサーパンダに与えられた名称だったはずである。後に中国の奥地で発見された白黒模様の不可思議なクマがジャイアントパンダと命名されたおかげで、頭にlesserが付いて「格下げ」された。私たちが単にパンダと言うときは大抵ジャイアントパンダを指すが、歴史的経緯から見ればフェアではない。

色遣いがおしゃれでビジュアルもキュートなレッサーパンダは充分スター性があると思うのだが、二足歩行が話題をさらった千葉市動物公園の風太君を除くと、今ひとつ知名度が伸び悩むようである。愛くるしさとオヤジっぽさが同居するジャイアントパンダの絶妙な愛嬌は誰しも認めるところと思うが、理不尽にもパンダの看板を奪われたレッサーパンダにしてみれば「地味なモノクロツートンカラーのやつらが何で」と忸怩たる思いかも知れない。リーリーやシンシンに華を持たすのも良いが、せっかくパンダのもりを作った好い機会だから、上野動物園は「元祖」パンダにもう少し敬意を表していいんじゃないか。

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番外編:北のペンギン [動物]

遅い梅雨明けを過ぎ、連日猛暑が続いている。で、少し涼しげな話題を一つ。

ondanka_animal_kuma_penguin.pngなぜシロクマは南極に棲んでいないのか、ペンギンはどうして北極にはいないのか、と聞かれたのでこの場で考えてみたい。いずれも極寒の地の果てを代表する人気者で、イラストで並んで描かれることも多いせいで不思議に思われるのか。答えは単純で、たまたまそういう進化を辿ったからに過ぎない。シロクマはヒグマと近縁だそうだが、南極やその周辺にヒグマはいない。そもそも南半球には、東南アジアのマレーグマと南米のメガネグマを除いてクマが棲んでいない。ホッキョクグマならぬ南極熊が存在しないのは、そこに祖先がいなかったからである。

ペンギンについては、調べてみたところ思いのほか話がややこしい。かつてペンギンと似て非なる鳥が、北大西洋と北極海一帯に生息していた。オオウミガラスという大型の海鳥で、全長80cmというからキングペンギンと同じくらいの大きさだ。飛べない代わりに泳ぎが得意だったことといい白黒のタキシード・ルックといいペンギンとよく似ているが、他人の空似に過ぎず近縁ではない。オオウミガラスはヨーロッパの船乗りには好都合なタンパク源だった上、その羽毛はダウンに脂肪はランプ油にと何かと需要が高かった。よちよち歩きで人を恐れない習性も災いして乱獲の憂き目に合い、19世紀半ばオオウミガラスは人類の飽くなき欲望の犠牲者として永遠に姿を消した。

実は、ペンギンとはもともとオオウミガラスを指す名称だった。目の上の逆パンダ模様のせいか、ウェールズ語の「白い頭(Pen Gwyn)」を語源とする説がある。大航海時代に南氷洋にやって来た探検家がオオウミガラスとそっくりの鳥を見つけ、ペンギンと呼んだ。そして本家本元が絶滅したあと、誤称がいつの間にか定着した。というわけで、北極圏にペンギンがいない理由は、人類が元祖ペンギンを殲滅してしまい、代わりに南半球の別の鳥がペンギンを襲名したからである。チコちゃんが得意げに語ってくれそうなネタではないか。

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