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番外編:厚労省の抗体検査 [科学・技術]

厚労省が、新型コロナ抗体検査の結果(検査キットの性能評価)を公表した。緊急事態宣言一部解除の陰であまり注目されないが、各社報道によれば赤十字から提供された献血検体を分析したところ東京の陽性率は0.6%、しかし精度に課題あり、だそうだ。今ひとつ歯切れが悪い。

antibody-test.png報道の元となった厚労省の発表資料が、新型コロナ関連情報サイトにひっそり載っている。ページ中程に「抗体検査キットの性能評価」というPDFが貼ってあるが、相当注意深く探さないと発見できないので(見られたくない理由でもあるんだろうか)、宝探し感覚で見つけてみてはいかがか。表が一つ載っているだけの簡単な資料で、学生時代の私の実験レポート並に内容が薄い。表注釈の文言を借りれば、今年4月時点で「東京都内では500検体中に陽性が最大3件 (0.6%)、東北6県内では500検体中最大2件 (0.4%)が陽性」だった。ただし、コロナ以前2019年初頭の検体にも同程度(最大0.4%)の陽性反応が出た。厚労省の結論は「2020年の結果についても偽陽性が含まれる可能性が高い」だが、もっと素直に言えば(検査誤差の範囲内で)抗体保有率はゼロ同然だったということである。0.4%や0.6%という個別の数値は、ノイズと判別し難いのであまり意味はない。

日本のコロナ死者数が欧米諸国に比べ目立って少ないことを鑑みると、抗体検査陽性率が10%を優に超えたニューヨークなどより市内感染の広がりは鈍そうだ。とは言え、ゼロ同然とは少々意外だ。緊急事態宣言下の4月にわざわざ献血に赴くのは相当に意識高い系の人かと想像するが、コロナらしき自覚症状に身の覚えがある人(ましてPCR検査で陽性を経験した人)が敢えていま献血しようとは思わない気がするので、赤十字の検体に陽性が入り込む余地がそもそも低いのではないか。東大先端研が一般医療機関で採取された検体を使った独自の抗体検査で500検体中3例陽性と同じ結果が出たが、制度上コロナの疑い患者は一般病院を受診しないはずなので、やはりサンプリングに偏りがあった可能性もある。ただ、もし無症状でも感染すればコロナウイルスに抗体が作られると仮定し、そのような感染者が無自覚に献血や一般病院に行っていたとすると、これらの抗体検査でもそれ相応の陽性率が見えてくるはずだ。不顕性感染の規模が、よく言われるほど広がっていないということか?どう解釈すればよいのか、いちど専門家に聞いてみたい。

厚労省の今回の調査はあくまで検査キットの性能評価で、本格的な実態把握は意図していなかったと思われる。今後1万人規模の抗体検査を始めるとのことなので、その事前準備という位置づけなら、公表が控えめ過ぎる事情も一応理解できる。だが、陽性率実質ゼロの母集団ではそもそも検証の役にも立たない。性能評価が目的なら、あえて感染履歴のある検体を一定数含めてブラインド・テストした方が良かったんじゃないか。

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