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総合的・俯瞰的な・・・ [政治・経済]

日本学術会議は科学者の国会などと喩えられることがあるが、国会議員と違って学術会議会員が選挙で選ばれるわけではない(昔は公選制だったが弊害もあり制度が変わった)。研究者の端くれの目に映る学術会議は、政治と科学の関わりに熱心な(または別に好きではないが巻き込まれてしまった)エラい学者たちの真面目なサロン、というイメージである。学術会議が国内87万人の研究者の総意を代表しているとは別に思わないが、本務の傍ら時間を惜しまぬ彼らの尽力には敬意を感じている。

自民党が、学術会議の在り方を見直すプロジェクトチームを立ち上げた。見直したほうが良いところは見直せば良いと思うが、そもそもことの発端は菅総理が「総合的・俯瞰的」判断をつぶやいたことであって、別に学術会議が何か不祥事を起こしたわけではない。でもなぜか、甘利さんとか非当事者が頼まれもしないのに学術会議への逆風をせっせと煽っている様子である。菅さんご自身はダンマリでも風の吹くまま物事がなびく仕掛けができているわけだが、蓋を開ければ誰も得をしない類の話であり、どこかモリカケ問題に通じる空虚感を禁じ得ない。

animal_chara_fukurou_hakase.pngよく聞かれる批判の一つは、日本学術会議は政府機関の一部で税金が入っているのにそれに見合う働きをしているのか、という指摘である。しばしば引き合いに出されるのが諸外国の類似機関で、欧米の科学アカデミーの多くは政府から独立した組織だ。なお誤解している人もおられるようだが、非政府機関であっても国の予算支援は入っている。少し古いデータだが、2001-2002年度に実施された内閣府傘下の専門調査会が簡潔にまとめた資料(PDF)がある。米国の科学技術系4アカデミーでは年間で計約280億円の予算が動いており、そのうち70%が連邦政府系のグラント等ということなので、国庫から200億円近い支援がある。英国の王立協会は予算規模およそ80億円、その半分強が国庫支出で賄われる。ドイツの科学アカデミー連合は年間予算37.5億円のうち、連邦政府と州政府が半分づつ担う。いずれも会員数が千人から数千人を誇る大規模な組織で、日本学術会議の10億5千万円に比べ何倍もの国費が投入されている。対してフランス科学アカデミーは7億円弱の年間予算のうち政府が6割を担い、予算規模は日本より小さいが会員数も少ない。

欧米諸国の科学アカデミーは政府と独立した立場で活動しながら、各国政府は相応の経済的支援をしている。それが先進国として当たり前の総合的・俯瞰的な見識のようである。実は上述の政府専門調査会は、海外の動向も含め日本学術会議のあり方を議論した上で、長期的には欧米のシステムと同様に国から設置根拠と財政基盤の保証を得た独立の法人とすることが望ましいと結論している。それから20年近くたっているが、法人化への検討が進んでいる気配は見えない。もし学術会議が総理任命権の影響下からさっさと脱していたら、総合的・俯瞰的な言いがかりをつけられる羽目にはならなかっただろうし、にわか学術会議問題論者から変テコなバッシングを受けずに済んでいたのではないか。

ところで、学術会議の在り方についてはとっくの昔に政府自ら2年近くを費やし検討を済ませているのだから、自民党プロジェクトチームの議員たちがわざわざ多忙のなか後追いするまでもない気もする。もっとも自民党と言えば、あのもやウィンの一件から察するに科学リテラシーに無頓着な人たちが多いようなので、先人の調査報告を総合的・俯瞰的に勉強しておいても損はないかもしれない。

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