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全日本フィギュア 音楽雑感 [音楽]

sports_ice_skate_shoes.png全日本フィギュアスケートの男子シングルで、今季初めて試合に出場した羽生結弦選手がぶっちぎりのスコアで優勝した。史上初の4回転アクセル成功なるかにばかり話題が集中したようだが、個人的には今の羽生選手の凄さは音楽的センスの鋭さだと思う。演技の所作一つ一つが、秒単位で音楽とピタリと合う。素人にも、これがいかに凄いことかは想像できる。ジャンプの踏み切りにタイミングを合わせていけば、1、2秒くらい曲に置いていかれることもあろう。相当なレベルのスケーターでも、「なんとなく」音楽に合わせてくる方が普通だ。しかし、去年くらいからか羽生選手はほとんどそのブレがないから、音楽に寄り添い綿密に練られた振付の意図がひしひしと伝わる。彼の演技が観客の心を打ついちばんの源は、そこにあるのではないか。

羽生選手は、ショートプログラムの楽曲にサンサーンスの『序奏とロンド・カプリチオーソ』を選んだ。清塚信也さんが書き下ろしたというピアノソロ版で、華やかでかっこいい。もともとはサンサーンスがサラサーテのために書いたヴァイオリンと管弦楽の曲で、ビゼーが編曲したピアノ伴奏版も有名だ。ドビュッシーはこれを2台ピアノ用にアレンジしているから、作曲家の創作意欲を刺激する何かがあるのかもしれない。ピアノ独奏版は序奏部がとてもリリカルで、原曲とはまた違う美しさがある。

宇野昌磨選手のショートプログラム、テレビの解説者は「曲は、オーボエ協奏曲」と厳かにと告げたが、視聴者の中には「で、誰の?」と思わず突っ込んだ人も多かったのではないか。交響曲とか協奏曲とかソナタとか、クラシックは音楽形式がそのまま曲名に使われる場合が多いので、作曲者を特定しなければ曲名は意味を成さない。宇野選手のオーボエ協奏曲はアレッサンドロ・マルチェッロの曲だが、のちにJ.S.バッハがチェンバロ独奏用に編曲したことでも知られる。バロック音楽は、楽譜の旋律に奏者が好みで装飾を加え自由に演奏することも多い。バッハは、マルチェッロのシンプルなメロディーをかなり自由にアレンジし、それを丁寧に譜面に起こした。私たちの耳に馴染んでいる有名な旋律は、主にこのバッハの創作である。この協奏曲に関しては「誰の」作曲かは一筋縄ではいかない話で、事実上はマルチェッロとバッハの共作に近いのではなかろうか。

羽生選手がいつもプーさんと行動を共にしていることは周知の事実で、今回も滑走の直前にプーさんの顔をギュッと握っていた。プーさんは北京オリンピックにも羽生選手に同行するものと思われるが、習近平国家主席がよくプーさんに擬えられることから、中国政府は黄色いクマにとても神経質である。税関で取り上げられたりしないことを祈る。