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北極圏某所にて 2021 [フィクション]

「先輩、結局やっぱりクリスマスはステイホームになっちゃいましたね。今年は配達行けるかとちょっと期待しましたけど、オミクロンのやつのせいでどこの国にも入りづらくなりましたし。」
「ああ、去年と同じでクリスマスプレゼントはAmazonに任せた。ま、いいさ。わしのYouTubeチャンネルは視聴数がぐんぐん伸びてるし、プロユーチューバーへの道は近い。昔から配達のかたわら動画を撮りためた甲斐があったな。」
「サンタ先輩の動画、フライトシミュレーターみたいでかっこいいって声が多いっすね。ソリで飛んでいる間、スマホのカメラつけっぱなしだったんですか?」
「というか、電源を切るのをつい忘れてな。おかげで北極海上空でスマホがバッテリー切れして、チャージする術もなく困ったことが何度もあった。」
「あ、飛行中に突然画面が真っ暗になった動画ありましたよね。サンタ墜落か、ってコメ欄が大騒ぎになってましたよ。」
「そうじゃったな。それにしても、今年の春に公開し始めてしばらくはほとんど反応がなかったのが、8月くらいから急に『いいね』が付き始めてな。世界的にコロナの波が揺り戻していたから、旅行系のチャンネルでステイホームのつれづれを紛らす人が多かったんじゃろうか。」
santa_tonakai_beach.png「8月ですか・・・?夏は仕事もなくて暇でしたねえ。」
「それで暇つぶしにコメ欄を丁寧に読んでおったんだが、『あのお茶目なサンタさんだ!』とか『チャンネルドルフからここに来ました!』とか不可解なコメントが次々に出てきてな。おまえ、何のことかわかるか?」
「え?いや、さぁ、何でしょうね。」
「チャンネルドルフってのを検索してみたら、こんなのが出てきたぞ。これ、お前のチャンネルか?」
「え、えっと、ルドルフっていう名のトナカイ、他にもいるんじゃないかな。はは。」
「赤の他人が撮った動画だったら、なぜわしが登場しておるんじゃ?煙突のない家だったから窓からそっと部屋に入ってプレゼントを届けようとしたんだが、セコムの警報機が鳴った一部始終がばっちり写っておる。『サンタ、セコムに追われる。草』みたいなコメントがごろごろ並んで、視聴数は1万を超えてたぞ。」
「ええまあ、あれはかなりヒットした回で・・・」
「それだけじゃないぞ。スピード違反で切符来られそうになったときの動画も、かなりアクセス数稼いだじゃろうが。恥さらしじゃないか。パトカーの前で調子こいて暴走したのはお前だぞ、ルドルフ。」
「いやいや、あれは同情的なコメばかりでしたよ。『サンタさん一晩で全部届けないといけないから、そりゃ焦るわ。お巡りさん許してあげて!』みたいな。」
「白状したようだから、まあ許してやるか。いったいいつからチャンネルドルフなんて立ち上げておったんじゃ?」
「えっと、東京オリンピック見ながら動画編集してたから、7月終わりから8月にかけてですかね。」
「8月?もしかして、サンタチャンネルのアクセスが急増したのは、おまえの動画からリンクで飛んできた輩ばかりだったのか?サンタチャンネルの人気が急浮上したわけじゃなかったのか・・・。」
「先輩、そんなにがっかりしないで下さい。サンタチャンネル、すごい好評ですよ。チャンネルドルフみたいにドッキリ系じゃなくて、正統派の旅番組としてちゃんと成立してますから。」
「今日はやたら気を遣うんだな。まあ、お前のおかげでファンがたくさん付いたと思えばむしろ感謝だな。ん、ちょっと待て。いまドッキリ系って言ったか?」
「あ・・・。いや別に、ぼく言いました、そんなこと?」
「イブの晩にサンタがプレゼント持って来るのはみんな分かってるから、大抵セコムは切っておくはずなのに、あちこちで警報が鳴って何かおかしいと思ってたんじゃ。スピード違反のときも、確かお前が・・・」
「いやいやいや、誤解です誤解。それにいいじゃないですか、先輩お茶目キャラで人気も出たし、結果オーライで・・・」
「ん?そのお前のスマホ、なんでレンズがこっちに向いておるんじゃ?まさか、いまそれで撮っているんじゃ・・・おいおい、そんな勢いで逃げ出すなよ。別に怒っておらん。長い付き合いだから、お前のやりそうなことはだいたい見当がついておる。このチャンネルドルフにしたって可愛いものじゃ。ん?新しい動画アップしたのか?どれどれ・・・。何だこれは!?ルドルフ、おい!戻ってこい!!」



※ 2人の前日譚はこちら

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