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和傘と洋傘 [その他]

鳥の翼と蝙蝠の翼は遺伝的には無関係だが、羽ばたいて飛ぶという機能が同じなので似たような形状に進化した。このような例を収斂進化という。ジャイアントパンダとレッサーパンダがともに笹を主食とし前足に第6指を持つのも、地味ながら驚くべき収斂進化の一例である。本来はレッサーパンダが「元祖」パンダであることは以前触れた(パンダの話)。

tsyuyu_kasa.png昔から関心を持っているがいまだに結論の出ていない疑問がある。和傘と洋傘は歴史的に同じルーツを持つのか、それとも独立に開発された収斂進化なのか?材質は違えども、畳んだ傘をバサッと開く基本構造は驚くほどよく似ている。

固定式のパラソルは紀元前から存在したようだが、開閉式の洋傘は13世紀のイタリアが発祥と言われる。当時はもっぱら日傘として使われていたようである。洋傘が雨を防ぐ用途に普及したのは意外に最近で、18世紀のことだ。もともと女性のアイテムだった日傘を紳士用雨傘に転用することを思いついた英国人は、当初笑い者になったという逸話がある。それ以前の欧州では、雨が降れば濡れて歩くのが当たり前だったのだ。

一方、開閉可能な和傘が日本史に登場したのは鎌倉時代とされている。ほぼ同じ頃イタリアで発明された開閉型の洋傘とのつながりを思わせる痕跡はない(洋傘が日本に入って来たのはもう少し後の時代のようである)。どうやら収斂進化のようだ。和傘は鎌倉時代にはすでに日傘と雨傘いずれの需要もあったそうなので、現在のような雨傘文化は西洋より日本がはるかに先行していたことになる。梅雨も台風もないヨーロッパと違い、雨露をしのぐニーズが高い日本の気候が独自の和傘文化を育んだということか。

傘が手放せない鬱陶しい季節がやって来た。折り畳み傘の小型化や軽量化の技術開発は進化を続けているものの、傘としての基本的な機能や構造は太古の昔からほとんど変わらないまま、現代でも老若男女問わず欠かせない日用品であり続けている。これほど人類史に深い爪痕を残した発明品が、ほかにどれほどあるだろうか。少なくともイタリアと日本には開閉型の傘を独立に開発した天才的な職人が存在したはずで、歴史の教科書に名を留めるべき偉人だと思うが、不幸なことに誰もその名を知らない。

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