SSブログ

サンタの憂鬱(中編) [フィクション]

前編からつづく

ルドルフがスマホのGoogleマップを見つめて言った。
「今年最後の配達先、ここです。ずいぶん大きな家っすね。」
サンタは魅せられたように豪邸を見上げた。
「まちがいなくセコムが入っておるな。まさか、おまえまたわしにドッキリを仕掛けるつもりじゃ・・・」
「いえいえいえ。今回は前もってセキュリティ切ってもらうようにちゃんと頼んでありますよ。」
「子供部屋の窓はどこじゃ?これだけ大きな家だと見当もつかんな。」
そのとき3階の窓がガラリと開いて、少女が顔を出した。
「あら、サンタさん。あなた本物?」
サンタは少女を見上げた。
「もちろんじゃ。偽物に見えるかい?」
「知らない人を家に入れるなってパパとママが言うから、念のため確かめたの。どうぞ入って、サンタさんとトナカイさん。」

少女の部屋に入ると、ルドルフがサンタにこっそり囁いた。
「ほら、ちゃんとサンタを信じている子もまだいるじゃないですか。」
少女はそれを聞き逃さなかった。
「まさか、そんな子供じゃないわよ。あなた方、宅配便の人でしょ。こんなにちゃんとコスプレしてくると思ってなかったから、ちょっとびっくりしたけど。」
サンタは面食らった。
「コスプレって・・・。正真正銘のサンタスーツなんじゃがの。」
少女がクスクス笑った。
「良かった、プロ意識高めの人たちで。ちょっと重たくてかさばる物をたのんじゃったから、本当に届けてくれるか気になってたの。」
サンタは白い大袋から大きな箱を両手で引っ張り出した。
「メリークリスマス!ふぅ、確かに重たいな。いったい何をお願いしたんだい?」
「エスプレッソマシン。流行りの上位機種なの。」
coffee12_espresso.png
少女がそう言うと、ルドルフが思わず口を挟んだ。
「お嬢ちゃん、エスプレッソ好きなの?好みが渋いな。」
少女はケラケラと笑った。
「お嬢ちゃんなんて呼ばれたの、初めて。私が飲むわけじゃないの。これを頼んだのはね、ママが淹れたコーヒーをパパがいつもマズいとかケチつけて、朝から二人で言い合いばかりしてるから。全自動のエスプレッソマシンならカートリッジ入れてスイッチ押すだけだから、旨いも不味いもないでしょ。」
それを聞いてサンタが感心した。
「なんて優しい子なんだ。自分の欲しいプレゼントより、ご両親のことを気に掛けているなんて。」
すると少女が口をとがらせた。
「別に、パパとママのためじゃないよ。ふたりが険悪になるとわたしもとばっちりを食らうから、くだらないケンカはいい加減やめてくれってこと。そもそもわたし、別に欲しいものなんてないし。」

少女を見つめ絶句するサンタに代わって、ルドルフが訊いた。
「欲しいもの、本当にないの?スマホとかさ、今の子だったら絶対持ちたいでしょ。」
「スマホなら、とっくに持ってる。ほら。」
少女は机の上に載っていたスマホをひょいと取り上げ、黄門様の印籠のように掲げた。が、何を思い出したか急に顔を赤らめ、慌ててスマホを伏せて机上に戻した。
「とにかく今日はありがとう。重たいもの頼んじゃってごめんなさい。」
なぜか急にしおらしくなった少女に、サンタは言った。
「いやなに。じゃ、素敵なクリスマスを!さ、ルドルフ行くぞ。」

窓から外に出ると、サンタは空っぽになった大袋を小脇に抱えてソリに乗り込んだ。夜空を駆けて行くサンタとルドルフの姿はみるみる小さくなり、やがて微かな点になって消えた。二人が見えなくなってずいぶん経ってから、子供部屋の窓が静かに閉まった。

後編へつづく

共通テーマ:日記・雑感