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サンタの憂鬱(後編) [フィクション]

中編からつづく)(初めから読む

christmas_santa_night.png北極圏に向かう夜空をソリで駆け抜けながら、サンタがルドルフに話しかけた。
「おませでドライな子じゃったな。現代っ子って、あんなものか?わしらをコスプレ宅配業者扱いしおったぞ。」
ルドルフはしばらく黙ってソリを引いていたが、やがてボソッと呟いた。
「あの子、先輩が本物のサンタだって、ちゃんとわかってたと思いますよ。」
サンタは驚いた。
「え、どういうことじゃ?サンタなんて端から信じていない様子だったじゃないか。」
「あの子がスマホを手に取って持ち上げた時、画面が見えちゃったんですよ。一瞬でしたけど、間違いないです。」
「もったいぶらんでいい。何を見たんじゃ?」
「サンタ先輩のYouTubeチャンネルですよ。ソリで世界を巡りながら先輩が撮りためた風景動画を編集したやつ。きっと、それを見ながらぼくたち二人が来るのをずっと待っていたんです。」

サンタは言葉を失った。ルドルフが続けた。
「あの子、何も欲しいものはないって言いましたよね。たぶん、大抵のものは買い与えられて、何でも持ってるんです。でも、あの子が本当に欲しいのは、どこかで買って来られるようなものじゃないんです。ただ誰かに気持ちを満たしてもらいたいんですよ。心の底から信じられる何かが欲しいんです。」
くだらないケンカはいい加減やめてくれってこと、と少女が言い捨てたときの表情を、サンタは思い出した。口調は厳しかったが、そう言いながら瞳が悲しそうに曇るのを少女は隠し切れなかった。
「先輩のYouTube見ながら、本当に来てくれるのか不安だったはずです。でも、サンタは約束通り現れた。態度には出しませんでしたけど、本心ではあの子、ものすごく嬉しかったと思いますよ。」

二人はしばらく黙ってソリを進めた。満点の星空の下、鈴の音が静かにリズミカルな響きを奏で続ける。やがてサンタが口を開いた。
「丘の上の公園で一人座っていた時、クリスマスの配送はもう廃業しようかと半ば本気で考えておった。でもあと1、2年くらいは続けてみようかのう。歳は取ったが、当面はまだ体も動きそうじゃし。」
ルドルフが軽くため息をついた。
「お忘れかもしれませんけど、あっしもそこそこの歳ですよ。ソリを引くのは肉体労働だし、きついのはきついっす。でも、サンタ先輩がそう言うなら、とことん付き合いますよ。」

前方の地平線上に、緑白色に輝くオーロラがうっすらと浮かび上がって来た。じきに北極圏に入る。黙々とソリを引くルドルフの背中を見ながら、帰宅したらこいつをどんなふうにねぎらってやろうかとサンタは考えていた。

(おわり)


※ 2人の前日譚はこちら。
1. 北極圏某所にて
2. 北極圏某所にて 2021

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