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大谷翔平のグローブ [スポーツ]

大谷翔平選手が、全国の小学校に総計約6万個のグローブを寄贈すると発表した。スケールのデカい話だが、今回書きたいのはそのこと自体ではない。大谷選手がインスタで公開した日英併記のメッセージに興味を引かれたのである。次のような下りがある。
このグローブを使っていた子供達と将来一緒に野球ができることを楽しみにしています!
これに相当する英文はこれである。
I’ll be looking forward to sharing the field one day with someone that grew up using this glove!
基本的な文意は共通するものの、いくらかニュアンスが違う。

sport_baseball_glove.png日本語は「子供達と将来一緒に野球ができること」というほのぼの感が前面に出ていて、(イチロー選手がやっているように)高校球児を指導に来て一緒にキャッチボールに興じるような印象をうける。一方英文は「このグローブを使って育った誰かといつか共に球場に立つこと」と言っているから、むしろメジャーリーグでガチな試合の緊迫感を分かち合いたいのではと思わせる。大谷選手が書いた原文は日本語と思うが、英訳の過程で「子供達」という不特定多数の意味合いが薄まり単数形の「someone that grew up...」に化けたのはなぜか?機械的な直訳ではまず出てこないニュアンスの変化で、日本語と英語の双方をよく理解している誰か(水原さんか?)が意図して訳出してこうなったはずである。

日本語のメッセージを見た第一印象として、6万個のグローブを使う子供のうち実際に大谷選手と「将来一緒に野球ができる」子はごく僅かだろうなあ、と思った。もちろん、リップサービスとしては充分成立する。ただ、本当に将来メジャーリーガーになって大谷選手と(彼の現役中に)対戦できる人材となると、それこそ通算で数人いるかいないかのレベルだ。そこまであからさまに対象を限定してしまうと、リップサービスとしても無理がある。

邪推だが、大谷選手はわざと日本語と英語で建前と本音を使い分けたのかもしれない。日本は人を才能で特別扱いしたがらないある種の平等至上主義が根強いので、「選ばれし誰か」よりも「子供達」全体に語り掛ける方がウケがいい。そこで、日本語では無難な公式メッセージを発しつつ、英語には(彼の意を汲んだ水原さんの助けを借りて)密かな本音を込めたのではないか。大谷さんは本心では、いつかメジャーの球場で「大谷選手のグローブ、昔使いました」と言ってくれる若手選手に出会いたいんじゃないだろうか。