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番外編:線状降水帯 [科学・技術]

suigai_kawa_mizukasa_ame.pngいつ頃からか、豪雨の絡みで線状降水帯という言葉をメディアで使う人が増えた。先日熊本南部を襲い痛ましい被害を出した水害も、「線状降水帯と呼ばれる現象」が引き金だったと盛んに言われる。でも、ちょっとヘンな用語である。試しにちょくちょく気象レーダ画像を眺めてみるとわかるが、降水帯が線状になるのは日常茶飯事で何ら珍しくはない。気象庁の用語集によれば、線状降水帯とは「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される」事象を指す。豪雨災害の文脈では、雨雲が列をなすことよりも、同じ場所に居座る要素の方が肝心だ。「停滞降水帯」とでも呼んだ方が、水害をもたらす気象の記述としては正鵠を射ているかも知れない。

私の知る限り、線状降水帯は国際的に認知された学術用語ではない。近い語感を持つ専門語にスコールラインという言葉があり、広い意味で線状降水帯の一種と言えそうだが同義ではない。積乱雲の雨粒が蒸発してできる冷たい下降気流が地面にぶつかって突風を作り、その先端で励起される新しい積乱雲が横一列に隊を成して伝搬していくのがスコールラインである。一方いま九州を悩ませているのは梅雨前線に伴う豪雨で、既存の風系が作り出す線状の収束帯(大気下層の風がぶつかるところ)に向かって湿った空気が流れ込み、雨雲が入れ代わり立ち代わり数珠つなぎに作られた。一口に線状降水帯と言っても、その中身は多様な現象の総称と見るべきのようである(専門的解説としては津口 2016が勉強になる)。台風とか温帯低気圧のように明確な物理的裏付けが確立している名称と比べると、曖昧な用語である。

実際には、立派な線状をしていても悪さをしない雨雲が大半だし、逆に丸かろうと三角だろうと条件が揃えば激甚災害をもたらす。形態は必ずしも本質と直結しない。どなたが線状降水帯と言い出したか定かでないが、視覚的イメージを喚起しやすい名称だけに、すこし粗いネーミングだったかという気もする。

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