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エリオット少年の気持ち [映画・漫画]

alien_ufo.pngこのあいだBSで久しぶりに『E.T.』を見たが、子供の頃に感じた印象といろいろ違って面白かった。孤独な少年が迷子の宇宙人と束の間友情を育む話だと思っていたが、今思えばE.T.にとってエリオット少年は果たして「友人」だったのか?E.T.は突然訳のわからない惑星に放置され途方に暮れていたわけで、友達を作るより一刻も早く助けを呼んで家に帰りたい一心だったはずである。その割に冷蔵庫のビールを勝手に開けて酩酊したりとかなり自由だが、その結果エリオット少年が被る迷惑をまるで意に介していないあたり、友情と言うよりエリオットの片想いに近い。

E.T.自作の通信機を森に設置した夜、本音ではE.T.に帰って欲しくないエリオットは初めてその本心を打ち明ける。ところがエリオットが翌朝目覚めるとE.T.は姿を消しており、捜索に走り回ったエリオットの兄が小川に転落した瀕死のE.T.を発見する。この展開が唐突で、ずっと違和感があった。森でじっと迎えを待っていればよかったはずのE.T.が、なぜ一人で動き回ったのか?小腹が空いてコンビニにおにぎりを買いに行こうとしたわけではあるまい。久々に映画を見返してふと思ったのは、エリオットの告白が重かったせいじゃないか。故郷に帰る期待に頭がいっぱいだったE.T.は、切々と引き留めるエリオットに戸惑い、その場に居づらかったのではないか。

終盤でいったん息を引き取ったE.T.が蘇生するくだりも強引な展開だと思っていたが、地球人に計り知れない各種能力に長けているようなので、自身を仮死状態に追い込んで脱出の機会を作り出すくらいは朝飯前だったのかも知れない。衰弱していくE.T.にエリオットが「逝かないで(Stay with me)」と呼びかけると、E.T.は意味深に「Stay...」を繰り返す。遠のく意識でおうむ返しに復唱しているだけと見せかけ、実は「すぐに生き返るからそこで待っていろ」というエリオットへのメッセージだったとも受け取れる。E.T.がシェイクスピアを読んでいたとは思えないが、言うなれば「ロミオとジュリエット」作戦だ。ロミオはジュリエットの意図に気付かず自ら命を絶ってしまったが、幸いエリオットは土壇場で事の成り行きを悟りE.T.の救出に成功した。

身も蓋もない言い方をすれば、E.T.にとってエリオットは帰還計画に手を貸してくれる好都合な協力者だったわけだ。ただ別れ際エリオットに「おいで(Come)」と誘っているから、本気で宇宙に連れ帰る気があったかはともかく、少なくともお礼に夕飯へ招くくらいの礼節は尽くそうとしたようである。これに対し「行かないで(Stay)」と呟くエリオットの面持ちは、張り裂けそうな諦観に満ちている。困ったE.T.は「ぼくはずっとここにいるから」と指先から念を送る得意のセラピーを試みるが、エリオットの表情は晴れない。ずっと気持ちを閉ざすことに慣れていた少年が、ついに孤独を共有する親友を得たと信じて心を開いてしまったばかりに、溢れる想いがかえって傷口を広げてしまった。別にE.T.が悪いわけではないが、なにかと罪つくりな宇宙人である。ハリウッド的なハッピーエンドで華々しく幕を下ろしながら、去りゆく宇宙船を見送るエリオット少年の、何と寂し気なことか。

ところで『E.T.』当初の脚本(PDFで読める)によると、このエンディングの後に短いエピローグが続くはずだった。以前はみそっかす扱いだったエリオットが、自宅で兄とその友人に混じり互角にゲームに参加している。屋根の上ではE.T.が作った通信機が作動を続け、カメラはその信号の行く末を追うように夜空へ駆け上っていく。渇望した「つながり」を手に入れたエリオットのリア充ぶりを暗示する後日譚だが、結局映画で使われることはなかった。物語の余韻としてはそれが正しい制作判断だったと思うが、おかげで傷心のまま映画史の殿堂に取り残されたエリオット少年が気の毒と言えば気の毒である。

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