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GoTo Where? [政治・経済]

コロナウイルスの影が広がる今の現状は、原発事故直後に日本を覆っていた空気と少し似ている。ウイルスも放射性物質も、目に見えない。普段の生活における感染や被曝の確率はかなり低いにもかかわらず、どこに潜んでいるか分からないから漠然と恐怖感があおられる。原発事故のあと、局地的に放射線量の高いホットスポットがしばしば話題になり、被曝への不安が高じてわざわざ遠くに引っ越した人もいる。コロナの場合は「夜の街」がホットスポット筆頭の扱いをされているが、ウイルスが放射性物質と決定的に違う点は人から人に感染することであり、場所ではなく人を避けざるを得ないところに問題の根の深さがある。

travel_bag.png感染防止と経済活性化のはざまに落とし所が見つからず、国の施策が迷走している。GoToトラベル・キャンペーンが賛否を巻き起こした挙句、東京発着を排除して敢行する苦肉の奇策に出た。感染拡大を阻止するなら人流を遮断するに越したことはないが、経済を回すには一人でも多くの人に動きまわって欲しい。指向が完全に逆なので、原則論を戦わせている限りそこに答はない。観光業界には「感染対策に万全を期すことが前提です」と政府は言うが、それはホストクラブでも劇場でも同じことであり、大半の業界関係者が対策を取っていても一部が「まあこれくらいは」となるとそこでクラスターが発生する。全ての人が100%ストイックに行動すると期待できない以上、人の流れが活発になれば感染は確実に拡大するだろう。問題はそれが許容範囲ですむか否かで、政府は乗り切れると楽観視しているようだが、医療従事者は既に戦々恐々としている。

そもそも全都道府県で緊急事態宣言が解除されて以来、国内旅行を妨げる制限(要請)はなくなった。それでも行きたいはずの旅行を控える人が多いとすれば、感染したりさせたりする懸念が現状まだ払拭できないからだ。感染リスクが低下していない(むしろ増大している)いま、値引きやクーポンが不安を帳消しにしてくれるわけではない。安く行けるならぜひ行きたい、と簡単にモチベーションが上がるのは感染リスクをあまり気にしない層であり、中にはホットスポットへまっしぐらに飛び込んでいく夏の虫もきっと紛れているだろう。制御可能な範囲で緩やかな感染は許容し経済を回すという狙いそのものに反対はしないが、肝心の感染制御に国として戦略性が見えず、何を思ったか火に油を注ぐために1兆円超をぶち込むとはいかがなものか。むしろその予算は医療支援に上乗せし、来たるべき「第2波」の制御に備えるのが筋だ、という意見もあるだろう。

もとをたどれば、GoToキャンペーンとは「感染収束後の」経済復興を期した策ではなかったか?それなら、来年や数年後でも使える旅行券とか宿泊券とか切符の引換券を発行すればいいんじゃないか。いつか行きたい旅先への旅行代金をいま払っておき、キャンペーン割引分は国が補填して旅館など現地の事業者に満額届くようにする。そうやって現在の苦境を乗り切る支援をした上で、私たちは状況が落ち着いた頃に支払い済みの旅行を満喫するのである。もちろん、移動や宿泊だけが観光産業の全てではないから、人が動き始めないと地元の小売店や食事処まで経済効果は波及していかないだろう。でも、小さな観光地で万が一クラスターでも発生すれば、それこそ街全体が壊滅的なダメージにつながりかねない。

繰り返すが、わざわざキャンペーンを張らなくても旅行に行きたい人はいつでも行ける。もし割引がなければ例年より集客は減るだろうが、そのほうが感染対策には好都合ではないか。いつになく人混みのない観光地をゆっくり味わえるなら別に安くなくてもいい、というニーズも間違いなくあると思う。GoToキャンペーンを予算審議に上げた頃はすぐに感染が下火になると高をくくっていたのかも知れないが、その読みが甘かった以上、土壇場で仕切り直す勇気も必要である。来週の連休前から始まる触れ込みなのに、未だ制度設計が流動的で曖昧だ。GoToトラベルとか言いながら、キャンペーンそのものがどこに行こうとしているのかよくわからない。本当にやるんだろうか?

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