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番外編:スパコンの使いみち [科学・技術]

マスク着用時の飛沫飛散をスパコンでシミュレートした動画が、メディアで紹介された。理研の「富岳」を利用した成果である。富岳は、「2位じゃだめなんですか?」のキャッチフレーズでかつて一世を風靡した京コンピュータの後継機である。ちなみに富岳の計算性能は直近の世界ランキング(BFS部門)で1位を獲得している。

nyudougumo.png飛沫飛散のような何気ない日常の一コマすら、計算機で再現するには高性能のスパコンを要する。ふと窓から外を眺めて目を奪われる入道雲だって、その勇姿をつぶさに計算機上で再現することは簡単ではない。ある日目にしたクジラ型の雲をスパコンで正確に再現できる(ように初期条件や雲微物理スキームをチューニングできる)研究者は、たぶん世界中探しても見つからないだろう。最新技術の粋を集めた大型計算機すら手こずる実験を日々ことも無げにこなしてしまう大自然は、偉大な神秘である。

飛沫飛散のシミュレーションも見た目はとてもリアルだが、実際のところどの程度現実を忠実に再現しているのだろうか?大きな飛沫と小さな飛沫では、空気抵抗や蒸発の速さが違うから、到達距離も異なるはずだ。理研が公開したシミュレーションの数値実験設定はわからないが、おそらく飛沫粒径分布の仮定次第で計算結果は変わるんじゃないか。ただ雲と違って飛沫飛散は簡単に室内実験ができるので、人の呼気に含まれる飛沫の大きさとか飛距離は、充分信頼に足る参照データがあるに違いない。

と書きながらふと思ったが、室内実験でデータが取れるならわざわざスパコンを回す必要があったんだろうか?最近テレビの科学番組などでよく目にする、飛沫を可視化する実験でも充分なんじゃないか。飛沫シミュレーションの真の目的は、マスクの効果検証より富岳のプロモーションだったと思えばよいのか。

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